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外伝01
 デッシュには過去が無い。
 昔のことは、一切合切忘れてしまった。
 それは、不慮の事故によるものなのか、それとも思い出のすべてを「なかったこと」にしたかったからなのか。
 おそらく両方だろうとデッシュは思う。
 今の自分には何も無い。だから、何者にも縛られず、気楽でいられる。
 ……はずなのに。
 時折、「本当にそれでいいのか?」と問いかけてくる、もうひとりの自分がいる。
 だから、なのだろう。
 旅先で偶然出会った四人組と一緒に行動してみようという気になったのは。

 ……クリスタルに選ばれた光の戦士?
 ……世界を救う?

 ホントかねー。
 
 しかし、最も「ホントかねー」と思っているのは四人組自身で、特にユールは「クリスタルに無理難題を押しつけられた、可哀相な正義の味方よ」などとボヤいている訳だが。
 それでも彼らは旅をやめない。
 その理由は……。
 旅そのものが楽しい、というのもあるだろう。
 けれどもそれ以上に、 やるべきことがあり、自分を必要としてくれる誰かがいるということは、幸せだ。
 たとえ、その幸せが、大きな苦労を伴うものだとしても。

 だから、自分も、知人でも何でもないシドの奥さんを助けると約束をし、険しい山を登ったのではなかったか?

「……みんな、結局は、ここに戻ってくるんだな」
「え? 何が?」
 半ば無意識に呟いた独り言に返事をされて、デッシュは目を瞬いた。
 真っ青に晴れた空からさんさんと降り注ぐ陽光、さわさわ揺れるのどかな草原。隣には、小柄な少女がちょこんと座って、不思議そうに彼の顔を覗き込んでいる。
 デッシュは苦笑いをしながら軽く手を振って、何でもない、と伝えた。
「ちょっと考え事をな」
「そっか」
 ならいいんだけど、と、彼女……ラーンは笑った。
「すっごく思い詰めたような顔してたから、何かあったのかと思っちゃった」
「ん~」
「……記憶、早く戻るといいね」
「あー……」
 生返事をした後に、ふと、浮かんだ疑問をぶつけてみる。
「あのさ。クリスタルに『世界を救え!』って言われた時、どんな気分だった?」
 するとラーンは、まるで花でも咲くように、にぱっと笑った。
「素直に『やったー!』って思ったよ」
「やったー?」
「だってさ、こぉんなすごい体験、滅多にできないもん。あたしたち、ラッキーだよねー」
「ラッキーか~。……確かにそうだろうけどさ、面倒だな~とか、なんであたしな訳? とか思わなかったのか?」
「う~ん。ちょっとは思ったけど、あんまり。世界のことも、あたしたちが救えるもんなら救ってやろうじゃない、って感じ」
「ラーンは熱血だな」
「う~ん。……なんかね、ムズムズするんだよね。あたしがどうにかすることで世界がちょびっとでも良くなるんなら、どんどんどうにかしてやろうって思っちゃうの。魔物と戦ってても、危ないかも、とか、怪我するかも、とか、そういうことって、不思議と思いつかないっていうか……あたしたち、クリスタルに選ばれちゃうくらいなんだから、きっとどうにかなるやって」
 そのあっけらかんとした答えがおかしくて、デッシュは笑った。
「いいね、いいねー。惚れちまうなー、そういう思考回路」
「いいでしょ。だからね、きっとデッシュさんもどうにかなるよ。どうにかならなくったって、どうにかしてあげるから、大丈夫」
「そいつぁ頼もしいね!」
 デッシュはラーンの髪をくしゃくしゃにして立ち上がった。
 やめてよー、と、追うように立ち上がったラーンの背は、彼の肩よりも低い。
 そんな彼女が頑張っているのを見ていると、意味も無く元気が出る。難しいことを考えて足踏みしている場合じゃない、とりあえずやってやろうじゃないか、という気分になる。それは貴重な才能だと、デッシュは思う。
 記憶がなくても。
 過去がなくても。
 たいそうな使命をきれいさっぱり忘れていても。
「……どうにかなるわな」
 うーん、とひとつ伸びをして、空気を胸いっぱいに吸い込めば、前方、どこまでも緑の絨毯の続く彼方に、ひょろりと長い灰色の塔が、おぼろに霞んでいるのが見える……。

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