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思い返してみると、師の言葉には、意味不明なものが多かった。
まぁ、その原因のほとんどは、私の知識不足に由来する訳なのだが。
何しろ、生きてきた時間が違いすぎる。師は、自分が何歳なのかを本気で忘れてしまうほど長く生きているのだから……
それにしても、だ。
「もうすぐ、千年に一度の試練がやってくる。
我々は、それに押し流されるのか、踏み止まるのか、
今迄は何とか見逃してもらった感があるけれども、さすがに今回は危険だね。スイッチがあるし」
言って師は意味ありげな視線を私に向けた。
「けれども、今回さえ乗り越えられれば、『雲』に縛られない世界が見いだせるはずだよ。そこに必要なものは、力と、夢と、欲しいものは何が何でも手に入れようとする貪欲さ。
欲望は、人間にとって、最も醜いものであると同時に、すべての原動力でもあるんだ。そいつで、奴をうまいこと出し抜くことが肝要なんだね」
「はぁ」
私には、気の抜けた返事をすることしか、できはしない。
……私は、よほど困り果てた顔をしていたのだろう。師はにこりと笑んで、私の肩に手を置いた。
「君ならどうにかできる。なぜって、私の自慢の弟子だもの、大丈夫だよ。きっと、奴を出し抜ける」
「……」
奴、とはいったい誰なのか。
出し抜く、とは、どういうことか。
当時の私には、何が何やら、さっぱりわからなかったのだが……。
今なら、師の言葉の一端を理解できているのではないかと思う。
奴を出し抜くことも、決して不可能ではないはずだ。
ただ、ひとつだけ、師が計算間違いを犯したとすれば……、それは、私が、世界を、人間を、そして何よりも自分自身を憎んでいる、ということだろう。
私は、いつだって、自分が死んでもいいと思っている。
だから、普通の人間ならば尻込みして近寄らない類いのものにも、なにくわぬ顔で、土足で、我が家のごとく、踏み込むことが出来る。
そんな私を、人々は恐れる。
わかっている。
だからこそ、私は自分が嫌いなのだ。
世界など、消えてなくなってしまえばいい。
この、強くて弱い、自分ごと。
今更、許しなど、請わない。
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