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男は、ただ、立ちつくしていた。
壮麗な塔の頂上を踏みしめて。
両手を、力なく、だらりとぶらさげたまま。
眼前に広がる、果てのない海を、真紅の瞳に映していた。
ついさっきまで、雲ひとつなくからりと晴れていた空は、急速に光を失いつつあった。分厚い、禍々しいほどに暗い雲がどろどろと垂れ込めて、
……ぱたり。
最初の一滴が落ちてきた。
ぽつり、
ぽつり、
ぽつ、ぽつ、ぽつぽつぽつぽつ、……ざああああぁっ……
雨が、男の身体を容赦なく打ちすえる。
それでも、男は、身じろぎひとつ、しなかった。
ただ、ぽつりと、
「これが、結果だ」
男はあくまで無表情だった。
けれども……。
あんな顔したザンデ様を見たのは、後にも先にもあの時だけでした、と双子は語る。
「ご自分の意志でやったこととはいえ、やっぱり、いろいろと、思うことはあったんでしょうね」
「あの時のザンデ様は、命あるものとは思えないくらい、完全に、完璧に、無表情でしたけれど」
「あんなに悲しそうな顔をしたひとを、僕達は、見たことがありません」
「……ザンデ様が亡くなられた今となっては、推測の域を出ませんけど」
「やっぱり、悲しかったんだろうと思います」
「色々な意味でね」
「そうですね」
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