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FF3おはなし03

「なななななな」
 クリスタルの不思議な力で地上へ帰還し、村へ戻った子供達は、まっすぐ長老の家へ行き、事の顛末を報告した。彼らの話を聞き終わった長老トパパは、口を「な」の形に開けたまま、完全に硬直してしまった。
「なんと、光の戦士……。よりによって、お前達が……」
「なぁ、光の戦士って何なんだ?」
 ナータの質問にも、長老は答えない。いや、答えられない。あまりにもあんまりな事態に、思考が混乱の極みに達していたので。
 かわりに、トパパと共に四人を育ててくれた女性、ニーナが説明してくれた。
「伝説にはこうあります。闇の力が増した時、光に選ばれた戦士は旅に出て、数多の困難を経験した末に、光と闇の均衡を取り戻すであろう、と」
 ラーンは両手を広げ、きゃっほー、と歓声を上げた。
「その光の戦士が、あたし達だってこと? それって、すっごくすごいことなんじゃない?」
「とんでもないことです!」
 ニーナは何度も首を横に振った。ふわふわで癖のある栗毛が大きく揺れる。
「大事な大事なあなた達を、危険なところへ送り出さなければならないなんて! どうにかならないんですか、長老様?」
 ニーナは救いを求めるようにトパパを見たが、長老は深く嘆息し、首を横に振った。
「クリスタルは、世界そのもの。クリスタルがこの子らを選んだというのなら、それが理に適うんじゃろう」
「そんな……」
「おじいちゃんの言う通りだよ」
 ラーンは自信たっぷりに胸を張り、きっぱり言った。
「このままウルに残ったって、魔物はいなくならないし、食べ物だって減る一方なんだし。それならとっとと旅に出て、大元の問題を解決した方がいいよ」
「それはそうだけど」
「そうと決まれば、準備をしなくてはな」言って、ルーンはトパパに迫る。「さあジジィ、旅に必要なものをよこせ」
 トパパは眼に力を込めて睨み返したものの、すぐに視線を落とし、溜息をついた。
「ああ、用意してやるとも。それくらいしか、わしらにできることはないのじゃからな」

 かさばらない綿の服に、丈夫で軽い麻の上着。指を保護する革手袋に、爪先を金属で補強した頑丈なブーツ。護身用の武器に、テント、寝袋、鍋、火打石。干し肉や、雑穀を粉にした携帯食料。水。
「いいか、この薬は傷薬。これは毒消し。こっちは解熱剤だ」
「え? え? もう一回言って! いっぺんに言われたって覚えらんないよ!」
 小さな村は上から下への大騒ぎ。村人総出で四人の旅の準備をし、あれも持っていけ、これも便利だからとやっている間に、鞄はぱんぱんに膨れ上がった。
  結局「こんなにたくさん持っていけないよ!」となり、取捨選択。荷が出来上がった頃には、すっかり夜になっていた。
  自分のベッドの上で、鞄の中身を確かめながら「それにしても」とナータが呟く。
「訳わかんねーよな。世界を救うだの、光の戦士だの。なんで俺達なんだろーな?」
「そんなもの、考えたってわからないわよ。『なぜ私は人間なの?』って悩むようなものだわ」
 ユールの突き放したような返事に、ナータはムッとしたが、すぐに元の調子に戻って、そうだよなぁ、と独り言のように呟いた。
「確かに、考えたってしゃーないわな。割り切ってやるしかねーか。……気は進まねーけど」
 するとユールは首を傾げた。
「嫌なの?」
「当たり前だろ」
 ナータは、ぶー、と口を尖らせる。
「なんで俺達が、世界なんか救わなきゃなんねーんだよ。ラーンは心底楽しそうだし、ルーンは強い奴と喧嘩ができるってんで、やっぱり楽しそうだけどさ」
「そうね。あのふたり、そういうの、好きだものね」
「ああ。けど、俺は嫌だね。光の戦士? クリスタルに選ばれた? 冗談じゃねーや」
「……」
 ユールはしばらくきょとんとしていたが、やがて、腹を抱えて笑いはじめた。……彼女がずいぶん長いこと笑っているものだから、ナータは思わず眉をひそめた。
「おいおい、どうしたよ?」
「だって、……なぁんだ、ナータってば、私と同じこと考えてたのね」
 笑い過ぎで出てきた涙を拭いながら、ユールはさらにくすくす笑い続け、不意に真顔に戻って言った。
「こうなったら、世界を救って、みんなで無事に戻ってきて、あのクリスタルに『あんたの言う通り、世界を救ってきてやったわよ!』って言い放って高笑いしてやるしかないわよね。そのためにも頑張らなくちゃ!」

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