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FF3おはなし07

  サスーン城は、大勢の人でごった返していた。兵士、魔導師、文官、料理人、道具屋のご主人など、ジンに操られていた人々や、ジンが再封印されたと聞いて戻ってきた人々が集結し、互いの無事を喜びあっているのだった。
 そんな中、ひょっこり戻ってきた『勇敢なるサラ姫と光の戦士ご一行様』は、感謝の言葉、花束、紙吹雪、握手、抱擁を受けて、もみくちゃにされながら城門をくぐり抜けた。城の中へ入ってしまえば、数人の衛兵以外は誰もいない。一行は、身体のあちこちにへばりついた紙吹雪を払ったりしながら、ようやく安堵の息をついた。
「……すごいな」
「俺達が英雄だなんて、変な感じだなー」
 いつの間にやら誰かにかぶせてもらったらしい花輪をいじりながら笑うナータを、ルーンがじろりと睨む。
「貴様は何もしなかったろうが」
「何言ってんだ。後ろの方で、ちゃんと応援してただろ」
「なんだと」
 長身のナータと小柄なルーンが睨み合うのを見て、サラ姫が声を上げて笑う。
「なんだか、親子喧嘩みたいで微笑ましいですわね」
「はぁ?」
 珍しくルーンが情けない声を出すので、ユールもつられて笑った。
「ずいぶん頼りないお父さんねぇ」
「うるせー」お父さん呼ばわりされたナータはふくれっ面。
「ねえねえ、サラ姫」モメる面子を尻目に、ラーンが姫の肩をつっついた。「お城に戻ってきたら、魔法のオーブを分けてくれるって言ったよね」
「ええ、確かに申し上げました。魔法のオーブ以外にも、必要なものがあればお譲り致しますわよ」
「やったー!」

 謁見の間に通され、王や高官達に面会し「礼として、望みのものを与えよう」と言われた一行は、素直に好意に甘えることにした。
 ジンのように派手な魔法を使いたいと望んだラーンは、攻撃魔法を中心とする黒魔法の宝珠をいくつか貰い、初歩の黒魔法をマスターした。
 皆そろって無事に帰るため、傷を癒す技術が欲しいと希望したユールは、回復魔法を主とする白魔法の宝珠を分けてもらい、初歩的な治療の術を身につけた。
 喧嘩好きのルーンは、敵をなぎ倒すための強力な武器を望んだ。遠慮もなしに城内の武器庫や宝物庫を漁りまくった末に、サスーンが誇る名剣ワイトスレイヤーに目をつけたものの、王家の血を引く赤魔道師にしか使えないシロモノであることが判明。ルーンはすっかり不貞腐れてしまった。
 そんな彼を気の毒に思ったのか、サラ姫が申し出てくれた。
「わたくしのお下がりでよろしければ、壁を破る時に使ったヌンチャクを差し上げましょうか? 見た目は無骨ですが、サスーンの名工に造らせた上等品ですわよ」
 もちろんルーンは、この申し出を受け入れた。
 最後にナータが「俺は、どうも魔道師って感じじゃないし、かといってルーンみたく武器を振り回すのも違う気がするし、けど、この前みたいに応援してるだけってのもアレだし。なんか、こう、ちょっとした、不思議な技とか使えたらいいなー、とか思ったりもするんだけどなぁ」などとブツブツ言っていると、城の書庫管理人から一冊の本を渡された。
「これは、グルガン族の予言を書き留めたものです。主に、世界を襲う災厄や、光の戦士について語られております。クリスタルに眠る英雄の力についても記述がありますから、これを読んで、ご自分の進む道を選ばれるがよいでしょう」
 ナータは礼を言って本を受け取ったものの、読書は大の苦手。びっしり並んだ活字を相手に七転八倒することとなった。
そして、ある朝、お迎えがやってきた。明るい日ざしの中、不思議な乗り物が、風を切る音を立てながら、サスーンの城門前広場に降り立ったのだった。

 ぱっと見た感じでは、小型の船に似ているけれど、すっくと立った帆柱には、帆ではなく、巨大なプロペラが取りつけられている。あの不思議な乗り物は何だろうかと集まってきた野次馬に、船の持ち主であり操り手でもある小柄な老人は、つややかに輝く蛇輪に手を掛けてポーズを決め、ニカッと笑って応えてみせた。
 やがて、野次馬達の中にウルの悪ガキ四人衆の姿を認めると、大きく手を振って「お前さん達、うまくやりおったのう!」と快活な声で叫んだ。
 呼ばれた四人は顔を見合わせた。
「誰?」
「知らない」
「覚えがないな」
「仮に知り合いだったとしても、あれじゃ誰だかわかんねーよ」
 ナータの言う通り、老人の顔の上半分はゴーグルで、下半分は白髭で隠れている。見える部分といったらツンととがった大きな鷲鼻ばかり、これでは誰だかわからなくても仕方ない。……が。
「もしかして」
 ユールはハッと思い出し、胸の前でパンと手を叩いた。
「カズスの町で会ったおじいちゃんじゃないの? ほら、宿屋で、宙に浮く船がどうとか言ってた」
 一同は再び老人を見た。ふさふさ飾りのついた鍔なし帽、風変わりな形の袖のカラシ色のシャツ、その上に羽織った刺繍入りのベスト。渋い着こなしのバッチリ決まった、実に粋な爺さまだ。爺さま……シドは、健康的な白い歯を見せてニヤリと笑い、一行に乗れと合図した。
「約束通り、飛空艇に乗せてやるぞい!」
「やったー!」
 群集をかき分け飛空艇に乗ろうとするラーンの首根っこを、ユールが無造作につかまえた。
「出発しようにも、荷物は全部お城の中でしょ。それに、お世話になった人達に、ちゃんとお礼を言っておかなきゃ駄目じゃない!」
 と、いう訳で、一行は荷物を取りにお城へ走り、サラ姫やサスーン王にお礼を言ってから、飛空艇に乗り込んだ。

「で、お前さん達、これからどこへ行くつもりなんじゃ?」
 飛空艇の甲板でシドに問われて、一行は答えに窮した。
 世界を救うという大きな目標はあるものの、あまりに漠然としていて、次の目的地が思いつかない。……というか、ウルから出たことのなかった一行は、どこにどのような場所があるのかを、ほとんど知らない。
「……どうしよう?」
 するとシドは空を仰いで笑った。
「目的地がないんなら、まっすぐカナーンへ行っちまうぞ! カナーンはここから南にある川の町でな、ワシの家もそこにあるんじゃ。こうして幽霊状態が治ったからには、我が麗しのばあさんに元気な姿を見せてやらんといかんからのぅ」
「麗しのばあさん」
 ナータがひゅうと口笛を吹き、ラーンが「愛だね!」と騒ぐ。
「それなら是非、奥さんを紹介してもらわなきゃ!」
「異義なーし!」
 盛り上がる一行を前に、シドは「うぉっほん」と大きな咳をひとつして、蛇輪に向き直った。
「稀代の発明家・シド様の大傑作、飛空艇にご乗車の紳士淑女諸君! こいつはほとんど揺れたりせんが、念のため、どこかにしっかり捕まっておけ! そして、船にまとわりついてる野次馬ども! 風圧で、山のむこうまでブッ飛ばされたくなかったら、今すぐ船から離れておけぃ!」
 これを聞いた野次馬たちが、慌てふためきながら離れていく。
 そして……。
 ごごごごごごご……ひゅんひゅんひゅんひゅんひゅん!
 機械の駆動音と共にプロペラが回転し、小さな船が浮きあがる。そのままゆっくり上昇し、木、民家の屋根、そしてあの巨大なサスーン城をも見下ろす高みまで昇ったところで、ゆるゆると前進を始めた。
「うわー……」
「高ぇ~!」
「気持ちいい~!」
 見たことのない眺めに感動し、手摺にへばりついたままの一行を乗せた飛空艇は、カナーン目指して南下をはじめた。

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