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FF3おはなし08

  カナーンはサスーンの南、ネルブの谷を抜けた先。飛空艇なら半刻とかからない。町を二分するように流れる川から水路が網目のように引かれていて、たくさんの舟が行き交っている。単純に移動するための舟がほとんどだが、中には、こぼれんばかりの果物を積んで商いをする女性の舟や、これといった用事もなく暇つぶしに櫂を繰る男性の舟、さらには花やレースで飾られた豪華な舟(どうやら結婚式らしい)まで、多種多様。
 そんな舟のひとつひとつが、山村育ちの四人組には珍しくて仕方ない。カナーンの町に入ってから、そわそわしっぱなしの一行を見て、シドは満足そうに笑った。
「どうじゃ、いい街じゃろ?」
「ええ、素敵ね!」
「うん。ホントに綺麗な町だよなー。水もいっぱいあるし。ウルで水のあるところっていったら、井戸と、ちっちぇー池だけだもんな」
「結構結構! それでこそ、一直線に連れてきた甲斐があったというものじゃ! そして……さあ、あれがワシの自慢の家じゃ!」
 シドが腕をまっすぐ伸ばして示した先は、白い壁と藍色の屋根を持ったかわいらしい一軒家だった。
「おーい、婆さんや! 帰ったぞい!」
 シドが玄関をノックしても、返事がない。
「おかしいのう。おーい! ばあさんや!」
「お留守かしら?」
「もしかしたら、愛想を尽かして逃げちゃったのかも」
「老夫婦の純愛物語が、一気に修羅場になっちまうな」
「やかましい!」
 シドが一喝したその時、近所のご婦人が三人、小走りにやってきた。
「シドさん、やっと戻ったのね! 奥様は、ここしばらく、寝込んでらっしゃるんですよ」
「ずっと熱が下がらなくて、お医者様の薬も効かなくて。こうなったら裏山の薬草を採ってくるしかないって話になって……ほら、 昔から、あの裏山には、質の良い薬草が生えてるから」
「けれど、裏山には魔物がいて、簡単には登れないんですの」
 魔物と聞いて、ルーンがずずいと一歩前に出る。
「そいつは是非、戦ってみたいな」
「やめときなさいって」
婦人のひとりは、苦虫でも噛み潰したように顔をしかめた。
「何日か前にも、この町にフラっとやってきた若い男が『それなら俺が薬草を採ってきてやるよ』と町を出たのですけど」
「けど、……もしかして」
 ナータがごくりと唾を飲む。
「そいつが、まだ、帰ってきてない……のか?」
「そうなんですの」
四人は、互いの顔を見合わせると、うん、と頷いた。

「なんだありゃ! 高っけーなぁ、オイ!」
  手を額にあて、口をぽかんと開けたまま、雲のかなたにかすんで見える山頂を眺めるナータ。その隣では、ユールがピキピキと顔をひきつらせている。
「……これを登るの?」
「まぁ、でも、まだマシじゃねーか? 一応普通に登れるんだし」
「普通に、ねぇ?」
 噂の裏山は、黄土色の岩がむき出しになった禿げ山。一応きちんと道があり、歩いて登れるようになってはいるけれど、その傾斜はかなりのもの。しかも、時折、四枚の翼を持つラストバードや、急降下してつついてくるダイブイーグルなど、様々な魔物が襲い掛かってくる。
「うわ、いてっ、いててて!」
 ナータが、巨鳥ルフの鋭いくちばしでつっつかれて悲鳴を上げる。ルーンが反撃を試みるも、相手は素早く飛び上がり、手の届かない上空へ逃げてしまう。
「くそっ、卑怯者め!」
 サラ姫から譲り受けたヌンチャクを握りしめ、悪態をつくルーン。すると女性陣は互いの顔を見合わせ、意味あり気な笑みを浮かべた。
 ラーンは、天から落ちてくる何かを抱きとめようとするかのように両腕を広げると、大きく大きく息を吸い「ファイア!」と叫ぶ。と同時に、ごう、と火の渦が巻き起こり、上空のルフを飲み込んだ。油断しきっていたルフは、ぎいっ、と悲鳴を上げ、そのままどこかへ飛び去った。
「焼き鳥のにおいが……」
 腹を抱えて呟くナータにユールが歩み寄り、癒しの術を施すと、魔物にやられた傷がみるみる治った。
「うおっ、効果てきめん。魔法って便利だな! 俺も何か覚えればよかったなー……」
  そんなこんなで魔物達を退け、息を切らして登っても、黄土色の風景が広がるばかり。薬草どころか、ペンペン草の一本もありはしない。へとへとになった四人は、道幅の広くなっている場所を見つけ、そこで休息を取ることにした。
「本当に、ここに薬草があるのかな?」
 干した杏をもぐもぐしながら呟くラーンに、ユールが「どうかしら」と肩をすくめた。
「とりあえず、一度、登れるところまで登ってみましょう」
「登れるところまでって、どこまでだよ」
 ナータが非難の声を上げる。
「はっきり言って、この山、めちゃくちゃ高いぜ。てっぺんが雲に隠れて見えねーもん」
「なにも、てっぺんまで登るとは言ってないでしょ。私たちの目標は薬草なんだから。本当にあんたって……」
 説教口調になりかけたユールを、険しい顔をしたルーンが「待て」と遮った。
「どうしたの?」
「何か来る」
「何かって?」
「また魔物?」
「わからん。何か、妙な羽音がする」
 ルーンの言葉に、三人は耳をすませますが、それらしい音は聞こえない。
「空耳じゃないの?」
「ありえないな。……来た!」
 今度は三人の耳にもはっきりと聞こえた。ばさっ、ばさっと風を叩く、はばたきの音。
 視線を上げると、空を覆うほどに大きな銀色の生き物が舞い降りてくる。その生き物……気品すら感じさせる顔だちをした巨大竜は、太くて力強い後ろ足で、ガッキと四人をつかみ上げた。
「ひっ!」
「何だっ?」
「いや~ん!」
じたばた騒ぐ四人を抱えた竜は大きくはばたいて、ぐんぐん上昇していった。

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