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FF3おはなし17

 とんでもないことになった、という実感は、あるような、ないような。
 自分たちが立っている地面は、実は宙にプカプカ浮いている。そう聞いたところで、大陸が浮いているところを実際に見た訳ではない。
「急いでどうにかしないと、大陸を浮かせている装置が壊れて一切合切落っこちて、みんな死んでしまう!」などと言われても、話が大きすぎてピンとこない。
 それでも一行はオーエンの塔を駆け下りて、エンタープライズ号を西へと走らせた。大陸の話はわからなくても、炎の中へ飛び込んだデッシュの意思と行動の凄さはわかっていたから。
「やっぱり、大事だったんだな」
 エンタープライズを操作しながら、ナータが呟く。
「デッシュは、軽い奴だと思ってたけど、実は、たくさんの人の命を背負ってたんだよな。で、俺達がやろうとしてる『世界を救う』ってことは、きっと、それと同じくらい、スゲー事なんだよな。それが、ちょっとだけ、わかってきたっていうか」
 陽が沈んで夜になり、天を埋め尽くす星々がぐるり巡って、水平線が明るくなりかけた頃、島が見えてきた。緩やかな山と深い森を抱く、豊かな島だ。
「ここのどこかに、火のクリスタルがあるんだよね。早く探して、デッシュさんを助けてあげなきゃ!」
 ラーンは拳を握りながら仲間の方を振り向いた。
「で、火のクリスタルって、この島の、どこにあるの?」
「……」
「……」
 黙り込む一行。情報がない以上、虱潰しに探すしかなさそうだ。
 歩いているうちに夜になり、野宿の場所を探していると、岩肌に口を開けた洞窟が見えてきた。これ幸いと足を踏み入れると、奥から背の低い髭モジャの人々がやってきて、開口一番、こう叫んだ。
「ラリホー!」
 四人は目をぱちくりさせながら、顔を見合わせた。
「えっと」
  ラーンが一歩前に踏み出すと、人々は進路を妨げるように立ちはだかり、再び「ラリホー!」と叫ぶ。
「俺たち、ドワーフ。ラリホー、ドワーフの挨拶。言わなきゃ友達とは認めないラリ!」
「ふざけやがって」
 心底嫌そうに顔を引きつらせるルーンの横で、ラーンとナータはにこやかに「ラリホー!」、ユールは少し戸惑いながら「ら、らりほ?」と挨拶し、人々に迎え入れられた。
 最後にひとり残ったルーンは、しばし視線を泳がせた後、下を向いて「ラリホー……」と呟いたが、ドワーフ達に「聞こえないラリー!」と怒鳴り返されてしまった。
 同じようなやりとりを何度か繰り返した後、自棄っぱちに「……ラリホー!」と叫んでようやく「よろしい!」と許可を出してもらった。
「それでは皆さん、奥の奥までずずいとどうぞ!」
 ドワーフのひとりが明かりを掲げ、一行を導く。
「いや~、久し振りのお客さんだから、つい、からかいたくなっちゃったラリ」
「ヒマ人か」
 遊ばれたルーンはうんざり顔。
「この上、クリスタルがなかったりしたら、踏んだり蹴ったりもいいところだ」
「ん? お客さん、クリスタルを探してるラリか? どうして?」
 ユールが「話せば長くなるけれど」と説明すると、ドワーフは髭をしごきながら「あ~。うん。なるほど~」と頷いた。
「確かに、炎のクリスタルはここにあったラリ」
 飛び上がって「やったー!」と叫ぶラーンを、ちょっと待って、とユールが制する。
「過去形なのは、どうして?」
 するとドワーフはいかにも決まり悪そうに眉をひそめ、髭モジャの口をモゴモゴさせた。
「盗まれてしまったラリ」
「えぇーっ!」
「盗まれたぁ?」
「いつ?」
「誰が?」
「どうやって?」
「あーっ、そんないっぺんに聞かれたって答えられないラリ!」
 立ち話も何だから、と、彼は客間のような部屋に案内してくれた。
 軽い食事と、黒くて熱い謎の飲み物を勧めながら、ドワーフは一部始終を話しはじめた。
「クリスタルを奪った奴は、それはもう、恐ろしい奴だったラリ。たくさんの魔物と、たくさんの人間の兵士を引き連れていたラリ」
「魔物と、人間を?」
「そう。そんなこと、普通じゃ考えられないラリ。恐ろしかったラリ。だけど、一番恐ろしかったのは、そいつ自身……」
「そんなにおっかない奴だったのか」
 ナータの相槌に、そりゃもう、と、ドワーフは両手を広げた。
「ド派手な帽子にド派手なローブにド派手なブーツ。とにかくド派手だけど、一見して魔道師とわかる服装だったラリ。そこまでは、まあ、普通ラリ。でも……」
 ドワーフは身を乗り出して、順繰りに一行を見回してから、低い声で囁いた。
「……でも、服の中には、肉がなかったんだラリ」
 沈黙。
「にく?」
「肉がない。つまり、骨しかなかった。……そいつは動く骸骨だったんだラリー! ヒイイィィ!」
 自分で言って悲鳴を上げるドワーフに、一行は、なぁんだ、と息を吐いた。
「スケルトンか」
「もっと凄いのがくるのかと思ったのに」
 動く骸骨……スケルトンには、旅の途中で何度かお目にかかったことがある。大して手強い敵ではなかったと言うと、ドワーフはすさまじい勢いで首を振った。
「スケルトンっていうのは、本能だけで動く、それこそ獣と同じようなものラリ。けれども、あいつは違ったラリ! そーんな生易しいもんじゃなかったラリ! 自分の意志でものを考え、言葉を喋ってアーガスの神官ハインと名乗り、あまつさえ黒魔法すら操って、村の者を傷つけ、火のクリスタルを奪ったラリ!」
「ええっ!」
「そんなことになっていたの!」
「大事じゃねーか!」
「アーガスの神官ってことは、アーガスの人達が消えたことと、何か関係があるのか?」
「きっと大アリだよ! 酷い奴だよね! 同じ黒魔道師として、許せないっ!」
 拳を握って闘志を燃やすラーンを「まぁまぁ」となだめながら、ユールはドワーフに向き直った。
「そいつが今、どこにいるか、わかるかしら?」
「わからないラリ。けれど、風の噂で聞いたラリ。アーガスの紋章をつけた人間が、トックルの村をひどい目に遭わせているって」
「トックルって……」
 ユールは地図を確認する。トックルは大陸の南、ちょうど、オーエンの塔からまっすぐ南下した場所にあるようだ。
「決まりだね! 行ってみよう! トックルへ」
 ラーンの言葉に、全員、重々しく頷いた。

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