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FF3おはなし26

 サロニアの家々は、真っ白い壁と、橙色の屋根のツートンカラー。太陽の日差しを受けた白壁は、目がくらくらするほどに輝いている。
 ラーンが落っこちたのは、サロニアの街の北西、背は低いけれど、面積の広い建造物が建ち並ぶ一角。
 ここはサロニアの文化の拠点。一際大きな図書館を中心に、博物館や美術館など、貴重な文化財を内に抱えた施設群が、ずらりと並んでいる場所だった。好奇心旺盛なラーンが、そのようなものを見つけてじっとしていられるはずもない。仲間探しをほっぽって、一目散に駆け出した。
 けれども、諸施設は、王様の命令で封鎖されていた。どの建物にも、剣や槍で武装した兵隊が複数人立っていて、周囲に目を光らせている。
「ちぇー。つまんないのー」
 ブツクサ文句を言って、小石を蹴飛ばしたりしていると、通りすがりの学者らしき青年が「図書館だけは、裏口からこっそり入ることができますよ」と教えてくれた。
「一般公開は禁止されているけれど、僕達のような研究者だけは、許可をもらったんです」
 渡りに船、とばかりに案内してもらうと、建物の中には、巨大な本棚が、隙間なくズラリと並んでいる。一番上の段の本などは、目のくらむような高さの脚立に乗ってようやく手が届く高さ。これだけの本を、いったいぜんたい、どうやって収集したのだろう。
 ラーンは思わず「ほわ~……」と、感嘆を声に出してしまった。
「……すごいや」
「すごいでしょう。で、どんな本を探しているのですか?」
「……」
 勢いでここまで来ちゃったんです。とは言えず、ラーンは適当に「古代人の本とか」と答えた。すると学者は嬉しそうに手を叩き「それは奇遇ですね。僕は古代史が専門なんですよ。さ、こちらへどうぞ」と、本棚の森の奥へとラーンを導いていく。
 やがて、目的の棚の前に辿り着いた。
「ほら。ここが古代史の本です。こっちには古代人本人が残した本もあるんですよ。ああ、ここにあるのは複写本で、本物ではないんですが、それでも、貴重な本であることにはかわりがありません。たとえば、この本。古代人が開発した様々な機械や浮遊大陸について、詳しく書かれています」
 学者の口から、浮遊大陸、という単語が何の抵抗もなく出てきたので、ラーンは心底驚いた。
「浮遊大陸を知ってるの?」
「それは、もちろん。現存し、現在も稼働している古代人の施設といったら、浮遊大陸と、古代の民の迷宮くらいのものですから」
「古代の民の迷宮って?」
「詳しいことはわかりません。侵入者を排除するシステムが現在も生きていて、調査をすることができないでいるので。ですが、文献によれば、そこには、土のクリスタルがあるんだそうです」
「え! 本当!?」
 とんでもない情報をサラリと口にする学者に、ラーンは仰天した。それが本当ならば、次の行き先は決まったようなものだ。皆を探して、乗り物を調達したら行ってみよう、と心に決める。
「その迷宮って、どこにあるの?」
「水の都アムルから、うんと北へ行ったところです。けれども、危険ですよ。先程も言いましたように、近づいただけで、侵入者迎撃システムに、やられちゃいますから」
「う~ん」
 迎撃システムというのが、どのようなものかはわからないけれども、光の戦士である自分たちなら、どうにかできるのではないだろうか。と、単純にラーンは考える。
「それでも行ってみたいなぁ」
「よほど興味がおありなんですね」
 学者は心底嬉しそうに微笑んだ。
「では、この本はいかがです? 古代史上最高の技術者であるオーエンの、助手の日記です。古代語で書いてあるのですが、宜しければ、訳して読んでさしあげますよ」

 某月某日。……オーエンは、大陸を空中に浮かび上がらせることに成功した。
 そこに人を住まわせることに対し、オーエンのご子息は、最後まで強硬に反対した。クリスタルの力を酷使すれば、何が起こるかわからないし、重大な事故が起こった時に、人々を危険にさらしてしまうから、と。
 けれどもオーエンは、自分の技術がどこまで行けるのか、何を生み出すことができるのか。それによって、多くのものが便利になり、多くの人が幸せになれるのなら、私は決して研究をやめたりはしない、と言う。
 何か悪いことが起こらなければ良いのだが……。

 某月某日。……まさか光が氾濫しようとは。光の力は暴走し、今や、私達にも止めることはできない。このまま世界はあふれた光に殺されてしまうのか?

 某月某日。闇の世界からやってきたという四人の戦士が、光の暴走を食い止めてくれた。
 彼らは何者? 闇の世界とは何なのか?
 しかし、おかげで世界は救われたようだ……。
 我々は機械を捨てることを決意した。同じ過ちを繰り返してはならない……。

 学者は本から目を離して言った。
「この、光の氾濫というのが、具体的に何なのかは、わかっていません。ほとんど記録が残っていませんから。知りたいと思うなら、当時、生きていた古代人に直接訊いてみるしかありませんね」
「さすがにそれは……無理だよね」
「でしょう? けれども、浮遊大陸を造った科学者、オーエン自身が書いた日記に、興味深い記録があるんです」
 彼は、その本の記述を、丸暗記しているらしい。その一節を、すらすらと語ってみせる。
「『……どのようなことがあっても、オーエンの塔だけは死守せねばならない。遠い未来、塔に何かが起こった時のために、息子のデッシュを保存することにする……』この記述が本当で、今も息子さんが保存されているのなら、是非、話をしてみたいですよね」
 ……今度こそ、ラーンは、打ちのめされた。
 オーエンというのが、塔の名ではなく、造った人の名前ということにも驚いたけれども、……竜の巣で出会った、陽気な記憶喪失の青年、あのデッシュがオーエンの息子……。
 頭がくらくらする。
 ラーンは学者に礼を言うと、図書館を出た。

 いろいろな話を一度に聞いて、すっかり頭が混乱してしまっている。早く皆を探して、さっきの話について、意見を聞いてみよう。そう思ったラーンは、とりあえず、サロニア城が見える方へと歩き出した。

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