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FF3おはなし33

 寝不足は、自業自得。わかってはいるけれども、なにもこんな朝早くに起きなくたっていいじゃないかと四人は思う。
(そういえば、養父トパパも、こんな風に早起きだったっけ)
 ぐらんぐらんする頭を抱えた四人と、ぐっすり眠って気分爽快のウネとオウムは、揃ってノーチラスに乗り込んで、ドーガの館へ帰還した。

 扉を開くと、そこにはすでに、ドーガとモーグリ達が待ち構えていた。
 周囲をぐるりとモーグリ達に囲まれたドーガは、見た目こそ微笑ましかったけれども、その表情は真剣そのもの。厳しい瞳でウネの姿を認めると、わずかに目を細めた。
「久し振りだな、ウネ」
「そうだね。ずいぶん長いこと会っていなかったものね」
「できれば、食事でもしながら旧交を温めたいところだが……」
「それはまた今度、ってことで」
 言ってウネは四人に向き直り、手招きした。
「おいで、光の戦士達。封印の間に案内するよ」

 館の最奥にあったものは、床一面に、巨大な魔法陣が描かれた広い部屋だった。
 魔法陣の中央に立ったドーガが、腕を広げ、歌うように呪文の詠唱を始めると、風が、どこからともなく流れ込んできた。
「……エウレカは精神世界の内にある」
 徐々に強さを増しはじめた風に、ドーガの橙色の衣が激しくなびく。
「本来ならば、人間には足を踏み入れることすらかなわぬ世界じゃが、この魔法陣と、ウネの夢魔法を組み合わせれば、エウレカへの道を穿つことができる。……光の戦士達よ、エウレカへ行く心構えはできているか?」
「もちろん!」
 ラーンが叫び、ルーンが頷く。
「いつでも構わん。もちろん、今すぐにでも」
「私も大丈夫よ。でも」
 言ってユールは、隣で頭を掻いているナータを見やる。
「あんたはどうなの?」
「いや、俺も大丈夫だけどさ。エウレカのある『精神世界』ってのが、いまひとつ、よくわかんねーんだよな」
 するとウネはにっこり微笑んだ。
「精神世界を理解するのは難しい。まぁ、夢の親戚だと思ってくれればいいよ。……それじゃあ、行っといで。エウレカへ行くチャンスは一度きりだからね、忘れ物がないように気をつけて」
「はい!」
 鞄の中身を確認した四人がドーガを囲むようにして立つと、ウネが何かの呪文を唱える。……と、突然、猛烈な眠気に襲われた四人は、その場にバタバタと倒れ伏し、深い深い眠りについた。
 すやすや寝息を立て始めた四人に、ドーガが低く呟く。
「無事に戻ってきてくれればよいが……」

 その夢の始まりがどのようなものだったか、すっかり忘れてしまったけれども……、気がつくと、四人は、並んで紫色の世界に立っていた。
 それは鍾乳洞のような場所だった。床も、壁も、天井からぶら下がるつらら状の突起も、すべてが毒々しい紫色。四人は、悪趣味~、などと呟きながらも、円陣を組んで、話し合いを始める。
「ここが、エウレカ?」
「凄いところだね……色とか色とか色とか」
「夢の割には、ずいぶんリアルだよな。岩は固いし、空気はひんやり冷たいし、ほっぺたをつねると痛いし」
「で? どうする? とりあえず、適当に歩いてみるか?」
「そうだね。ここでうだうだやってても、仕方がないし」
 しばらく無言で歩いていると、やがて、きらきら輝く泉へ出た。湖と見間違えそうなほど大きい泉の上には、長い長い橋が一本渡されていて、その奥に、祭壇のようなものがあるのが見える。
 近づくと、白く透けるような肌の女性の姿があった。薄い緑色のドレスを纏った女性がニッコリと微笑む様は、美しい風景の中でなら、うわぁ、絵になるなぁ、と感嘆するところだけれども、ここは紫色の世界。何というか……強烈な違和感。
 祭壇に上がると、女性は優雅な礼をして、ルーン、ナータ、ラーン、ユールの顔を順に見て、ふわりと甘く微笑んだ。
「ようこそ、光の戦士達。あなた方の現在の称号は、シーフ、幻術士、黒魔道師、白魔道師とお見受け致しますが、いかが」
「え? あ、……はい」
 うろたえながらユールが頷くと、「ちょいと、ちょいと」とナータが手を振る。
「幻術士って、俺のことだよな?」
「知らずば教えて差し上げましょう」
 女性は、微笑みを浮かべたまま、柔らかな口調で言葉を紡ぐ。
「幻術士とは、精神世界に住まう幻獣を物質世界に召喚し、使役する者です。過去に、何もない場所から、チョコボなどを出現させた経験がおありではないですか」
「あ、ある! ある!」
 ナータは叫びながら自分の膝をバシバシ叩いた。
「……そっか。そういえば、幻術士がどうのって、クリスタルに言われた気がするなー」
「エウレカには、封印されし称号が眠っています。武器を扱う者の最高峰である忍者、召喚魔術士の最高位である魔界幻士、禁断の黒魔法の使用を許された魔人、同じく禁断の白魔法の使用を許された導師。これらの称号と、それに相応しい力、そして武器を、あなたがたに授けましょう。……もっとも、その資格と、力を受けきる器があれば、の話ですが」
 女性がニヤリと笑った瞬間、その姿が爆発した。容積が何倍にも膨れ上がり、途方も無い数の獣が融合した、巨大な魔物へと変化する。
「我が名はスキュラ」
 あっけにとられる四人を遥かに見下ろして、魔物は言った。
「禁断の称号を護るもの。力を得たくば、見事、私を打ち倒してみよ」
 四人は顔を見合わせ、うん、とひとつ、頷いた。武器を構え、魔法の準備を整え、臨戦態勢に入る。
「いくぞっ!」
 そして……。

 がば、と四人は起き上がる。
 そこは魔法陣の上。
 ついさっきまで鮮明だったエウレカの記憶は、多くの夢がそうであるように、目覚めと共に曖昧になってゆく。やっぱりあれは、ただの夢だったんじゃないかと思い始めた頃、ふと、気がついた。各々の手に、エウレカで授けられた武器が、しっかりと握られていることに。
 ルーンは巨大な幅広の刀を、ナータは細身の突剣を、ラーンとユールは魔法の杖を。
「ラグナロクにティルヴィング、すべての棒に、長老の杖だね」
 ウネが言うと、ドーガは、うむ、と重々しく頷いた。
「無事、エウレカの試練を乗り越えたようだな。あとは……」
 ……まるで、次の言葉を遮るかのように。
 ごっ、と、世界が揺れた。

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