「お前のような子供が? 樹海へ?」
問われて、そうだよ、ボクは冒険者だもの、と、赤毛の少女は胸を張った。
「半年と全財産をかけて、ここまでやって来たんだから。今更帰るなんてできないよ! 絶対に、樹海の一番深いところまで潜って、誰も見たことのない風景を見に行ってやるんだから!」
すると、やたらと目つきの悪い黒髪の男……冒頭の問いを発した奴だ……は、ぴくりと眉を動かした。
「半年? ……どこから来たんだ」
「シュタールだよ!」
「……そんな地名、聞いたこともない」
「それくらい遠くなんだって」
「……で? 腕に自信は?」
「もちろん、あるよ! そこらへんの冒険者よりも、ずっとうまいことやれると思うな!」
「へぇえ?」
男は、赤い目をカッと開いて、にたぁ、と凄みのある笑みを浮かべた。
怖い。
怒らせてしまっただろうかと少女は思う。だとしたら、きっと、ひどいことになるに違いない。罵詈雑言を浴びせられるか、それとも鉄拳制裁か。男の両腕には、金で装飾された黒鉄の小手が嵌められている。あれで殴られたら痛そうだ。身構えた少女に、男は言った。
「なら、一度、試しに行ってみるか」と。
どこへ、と問えば、樹海へ、と答える。
「樹海の謎を、洗いざらい解くために、さ!」
「!」
少女の顔に浮かぶ表情が、にぱっと明るい笑顔に変わる。
「そうこなくっちゃ!」
男の名はキトラ。少女の名はカーシャ。
エトリアの街の宿で偶然出くわし、なんとなく交わした会話、それが、すべての始まりだった。 |