そろそろ朝食も終わろうかという頃、思い出したように「そういえば」とキトラが言った。
「お前ら、どういうきっかけで、世界樹の迷宮に潜ろうと思ったんだ?」
問いかけられた4人は、あれ? と顔を見合わせた。
「そういえば、今の今まで、そういう話、したことありませんね。……僕は、カーシャさんとキトラさんに誘われたから、ですけど、他の皆さんは……」
言ってサリナスはツィレーネを見る。
「ツィレーネさんは、もうずっと長いこと冒険者だったんですよね? で、あちこち旅しているうちにここへ流れ着いたっていう」
ツィレーネはハムを頬張りながらこくりと頷き、次に、軽く首を傾げてシェーヴェの顔を覗き込んだ。
「私ですか? 私もツィレーネさんと似たような感じですよ。吟遊詩人として、歌ったり語ったりしながら旅しているうちに、人の多いエトリアに辿り着いて、皆さんに出会ったんです」
じゃあ、キトラさんは? と問われ、俺も同じようなもんだ、と頷く。そして、カーシャの方を見て「お前は?」と問う。
カーシャはレタスをぱりぱり齧りながら「えーと」と呟き……。
「学校の授業で、エトリアのことを習ったんだよ。うんと遠い場所に、エトリアって大きな街があって、そこにはすんごい迷宮があるんだって。誰も迷宮の一番奥まで行った事がないし、そもそも、ボクのいた街……シュタールからエトリアは遠すぎて、行ける訳ないよ~って話になって」
「うん」
「ボクは『行けないってことはないと思う』って言ったんだけど、先生やクラスの皆は、口を揃えて『絶対無理!』って言うんだ。それじゃあボクが試しに行ってみる、って教室出て、そのまま旅に出ちゃったの」
「……」
「でも、ねぇ? こうやってエトリアに来れたし、迷宮へも行けてるし、絶対無理なんてこと、ないんだよねぇ?」
言って再びレタスを齧るカーシャ。沈黙した一行の間に、繊維を砕く音だけが、ぱりぱりと響く。
「……なんつーか」
ようやく口を開いたキトラが、カーシャの頭をくしゃくしゃとかき回す。
「やっぱ、お前、凄ェわ」
うん、と頷くメンバーに、カーシャだけが、「そうかなぁ」と怪訝な顔をしたのだった。 |