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仕切り線1

【06*ライバルギルド登場!】
地下6階探索中。
エトリアの街での一悶着。

 新参ギルド「シュタール」が、森の狼達のボス・スノードリフトを倒したという噂は、瞬く間にエトリアの街に広まった。

 スノードリフトを倒したからといって、ちやほやされるということはない。むしろ「これで中堅冒険者の仲間入りですね!」と宿代が値上がりしたりして、迷惑している。
 そして。

「スノードリフトを倒したシュタールってのは、あんたたち?」
 食堂で朝食中のシュタールに、ひとりの女戦士が話しかけてきた。
 男性と見間違えそうなくらいがっしりと大きな身体。使い込まれた鎧。背に負った大きな斧。無骨なそれらとは対照的に、長い茶髪は丁寧に編み込まれ巻き上げられて、きっちりと整えられている。
「そうですが、何か?」
 にこにこと答えたのは人当たりの良いシェーヴェ。
 しかし彼女はシェーヴェを無視し、ひとつテーブルを囲んで食事するシュタールの面々を、無遠慮にじろじろと眺め回した。
「リーダーは誰? そこのアルケミスト?」
「……」
 キトラはしかめっ面をしたまま、フォークでカーシャを指し示した。
 うまうまと食事を続けるカーシャを見た女の目が、真ん丸に見開かれる。次いで、ぷっ、と可笑しそうに吹き出した。
「えええええええ? こんなちんちくりんがリーダーなのぉ? 他のメンバーもなんだか頼りないし、よくこんなんでスノドリを倒せたわねぇ!」
 これにはさすがのカーシャも機嫌を損ねた。ソーセージを食べようとした手が止まり、「なんだよぅ!」と立ち上がろうとするのを、キトラが押さえる。
「やめろ。相手にするな」
「でも」
「こんな子供をリーダーにするなんて、よっぽど人材不足なのかしらねぇ。鎧を着てるコが一人もいないっていうのも何かアレだし。全体的に細っこいコばかりで頼りないし。体格の良いのがいたかと思えばアルケミストだし。しかもうちのに比べると鈍くて頭も悪そうだし」
 がたんっ。
 キトラが無言で椅子を蹴る。術式起動していることに気付いて、カーシャは彼の右腕に飛びついた。
「ちょ! やめなよ!」
「止めるなカーシャ! よりによって鈍いとか象より重いとか好き放題言いやがって! 消し炭にしてやるッ!」
「体重のことなんか誰も何も言ってないって! 止めに入った奴が逆にキレてどうすんのさ!」
「そうそう。アルケミストは常に冷静でないと……」
 妙に気取った声がして、女戦士の背後から、金髪の男性アルケミストが現れる。気障ったらしく前髪を掻き上げながら、いやらしくキトラをねめつける。
「クールじゃないぜ」
「……!」
「そこらへんにしておけ、お前達」

 静かな声があって、女戦士と金髪アルケミストが弾かれたように振り向いた。
 物腰穏やかな、壮年の、雲突くような大男がそこにいた。女戦士以上に重くて頑丈そうな鎧に身を包み、身の丈程もある盾を携えた騎士。
 彼は大きな身体を折り曲げて、頭を下げた。
「我がギルドの者が面倒を掛けたようだ。申し訳ない」
「……お前がこいつらのリーダーか」
 右腕にカーシャをしがみつかせたまま、キトラは憮然と呟いた。
「だったら、余計な喧嘩は売るなと、きっちり言い聞かせておけよ」
「ご忠告、有難く受け取っておく」
 男は生真面目そうに頷いて、何か、祈るような仕草をした。
「我が名はルゥクス。不肖ながら、ギルド『ルミエル』のリーダーを務めている。そちらの戦士はカンテラ。錬金術師はストラウドという。あと二人、レンジャーとメディック、それで全員。お互い樹海を探索する者同士、迷宮の奥でお会いする機会もあろう。どうか見知り置きを」
 ふん、と、キトラは鼻を鳴らす。
「仲良くしようって気は爪の先程にも起こらないが、人間同士が樹海の奥で大喧嘩、なんて事態は避けたいからな。それなりに宜しく」
「それなりに」
 ルゥクスは苦笑しつつ、行くぞ、と、仲間達を促した。

 ルミエルの面々がいなくなってから、シェーヴェがぼそりと呟いた。
「もっと派手な喧嘩に発展するかなーと思っていたんですけどねー。もしそうなったら、歌のネタがまたひとつ増えるなぁと楽しみにしていたのに。や、残念残念」
「……!」
 全然残念そうでない顔で食事を続けるシェーヴェに、キトラは左手で髪をかきむしった。
「そんな風にのんびりオーラを漂わせているから、やすやすと喧嘩を売られるんじゃないか!」
「確かにそうですねぇ。それにほら、ウチって、ひょろっこい体格のヒトがほとんどじゃないですか。鎧を着込んで、敵の攻撃をがっちり受け止める役がいない。守りが弱すぎる。あの女性の指摘は、間違ってはいませんよ」
「……」
 それを言われると、正直辛い。スノードリフトとの戦いの時も、防御力の高い壁役がひとりいれば、ツィレーネが大怪我をしつつ戦うなどという無茶をせずとも済んだかもしれないのだ。
「……守りが脆弱、それは事実だ。認めよう。だがな、全員一丸となって先制攻撃で畳み掛ける、シュタールはそういうギルドだ。そこに足の遅い壁役が入っても、うまく噛み合うかどうかはわからない。今のスタンスでうまくいっているうちは、無理にいじる必要もないと思うがな」
「それには激しく同意です。そして、たまには、ああやって外圧を受けて、自らを省みるのも良い経験ですよ」
 満面の笑みで頷いて食事を続けるシェーヴェに、キトラは頭を抱えようとして、いまだに右腕にしがみついているカーシャに気がついた。
「……おい。こら。いい加減、離れろ」
「ええー」
「ええー、じゃない。今日は地下6階を制覇するんだろう。しゃんとして気合入れてけよ、リーダー!」
 リーダーと呼ばれて、カーシャは手を離した。ビシィ、と直立し、敬礼のようなポーズを取って「がんばりまっす!」と一声叫ぶ。
「と、言う訳で、今から20分後にここに集合! 磁軸を使って、地下6階へ直行するよ! 皆、今日もよろしくね!」
「はーい」
「わかりました」
「……」
「了解です!」


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