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仕切り線1

【08*運び運ばれて】
地下11~12階攻略中。
TOMOさんとのコラボです!

「さて。地下11階、第3階層までやってきた訳ですが」
 シェーヴェが、書きかけの……というより、ほとんど白紙の地図を広げる。
 世界樹の迷宮、第3階層『千年ノ蒼樹海』は、まるで海のように蒼く輝く神秘的な森。この階層、存在は知られていたものの、一般の冒険者が足を踏み入れるのは数十年振りのこと。ここから先がどのような場所なのか、どのようなモンスターがいるのか、どんな資源が眠っているのか、記録はない。冒険者達が、イチから地道に調べなくてはならないのだ。
「今回は執政院から『11階、12階の詳細な地図を作れ!』とお達しが出てますから。まずはそちらを最優先、ということで」
「うん。そうだね。……それにしてもさぁ、ここ、足場悪いよね」
 カーシャがつま先で床を叩くと、コツコツと硬質な音がした。一見、とても頑丈なように見えるけれども、ところどころヒビが入っていたり、妙にグラグラしていたりで、安定しているとはいいがたい。
「もしかしたら、いきなり崩れたりすることがあるかも。足元に気をつけて」
「そうだな」
 先頭に立っていたキトラが、何気なく一歩踏み出した途端。
 足元が、崩落した。

 落ちた先は地下12階。キトラは全身をしたたかに打ったが、草木が積まれた上に落ちたお陰で、幸い、怪我はしなかった。やれやれと呟いて右を向けば、体育座りをし、足をさすっている赤毛頭が目に入った。
「なんだ、カーシャ、お前も落ちたのか」
「巻き込まれたんだよ。結構広い範囲、崩れたもん」
 まったくもう、とカーシャは口を尖らせる。
「気をつけてって、言ったのに」
「仕方ないだろう」
「キトラ、重いからねぇ」
「ぐっ」
 一声呻いて、キトラは硬直した。実は彼、かなりの体重があって、そのことを気にしているのだった。
「……それはそれとして、だ。これからのことを考えよう。迷子になった時は動かないのが鉄則だが……」
「そうなんだけど」
 カーシャは用心深く周囲を見渡した。草木が積まれているということは、何かの生き物が、ここを利用しているということだ。そいつがひょっこり戻ってきて、戦闘になる可能性は極めて高い。そう指摘すると、キトラは、ふむ、と呟く。
「ならば、帰還の術式で11階に戻って、シェーヴェ達を探すのが確実……か?」
「でも、それだと、行き違いにならない? 歩いて11階に通じる階段を探しながら戻った方が、皆と合流しやすいと思うんだ」
「確かに。……だが」
 ちらり、とキトラはカーシャの足を見る。
「歩けるのか?」
「平気だよ」
「見せてみろ」
「大丈夫だったら」
「大丈夫かどうかは見てから決める。こっちへ来い」
「大丈夫ったら大丈夫なんだもん!」
「馬鹿、いいから見せろ!」
「やだー! 暴力反対ー!」
 じだばたするカーシャを押さえつけ、半ば無理矢理ブーツを脱がすと、足がぱんぱんに腫れ上がっている。思わずキトラは顔を歪めた。

挿絵01

「お前! これのどこが大丈夫だ!」
「ひー!」
 叫んでカーシャは頭をかばうような動作をする。キトラは舌打ちし、鞄を漁った。
「回復アイテムは……、無いか……。仕方ない。とりあえず応急処置だけして、帰還の術式と磁軸使って、街まで帰るぞ。いいな!」
「ごめん」
「いちいち謝るな!」
 吐き捨てるように言って、処置にかかる。そこらに転がっていた、つやつやに光る板(昆虫の殻か何かだろうか?)を添え木代わりに、首に巻いていた布を裂いたものを包帯代わりにして、足をしっかりと固定する。
「これでよし、と。……あとは帰還の術式を組み立てれば……」
 言ってキトラは木切れを拾って、地面に、簡単な地図と、難解な数式を書き始める。
「磁軸の場所がここで、少し歩いて、この辺で落ちて……現在地はここと仮定すると……位相はこうなって……術式は……。……いや、違う……」
 ガリガリと、地面を掻く音が響く。
 カーシャは、あれ? と首を傾げながら、地面に書かれた図式を眺める。
 普段、キトラは、術式を組むのに、いちいちメモを書いたりしない。すべて頭の中で、瞬時に計算してしまうのに、なぜ今日はこんなことを?
 ひょっとして、調子が悪いのだろうか。それとも……。
 そこまで考えて、そうか、とカーシャは膝を打つ。
 帰還の術式は、樹海の転送技術を流用して、直前に使った磁軸へ移動する術である。起動させるためには、現在地を正確に把握する必要があるのだが、今日はあんなことがあったから、さすがのキトラも、現在地を掴めていないのだろう。
 複雑な計算式を、書いては消し、書いては消し、の繰り返し。
 よくもまぁ、こんなヤヤコシイ計算ができるよなぁ、とカーシャが嘆息した、その時。
「……ちょ、キトラ」
「もう少しで出来るから。大人しく待ってろ」
「や、そうじゃなくてね、……よいしょっ!」
 カーシャは座ったまま弓を構え、2本同時に矢を放つ。……命中! ギィ、と耳障りな音(声?)を上げて、銀色の、巨大な蟻が倒れ伏す。が、迫る蟻は一匹や二匹ではない。その横にも、後ろにも、反対側の通路にも、……何匹いるのか、見当もつかない。完全に囲まれている。さらに数匹を打ち倒しながら、カーシャは呟く。
「もしかして、ここって、蟻さんの巣だったりする?」
「かもな」
「やっばいなー。次に来る時には注意しないとねぇ」
「そうだな」
「……まだ?」
「もう少し。……出来た!」
 叫んでキトラは木切れを放り出し、カーシャの腕を掴んだ。その瞬間、術式が起動し、紫色の光が周囲を走る。瞬間移動。目の前に現れた磁軸に飛び込んで、再度空間を跳び、樹海の入口へと帰還する。……二人は安堵の息を吐いた。
「危なかったな」
「うん。やばかった。でも、なんとかなったね」
 樹海の入口で、しばし佇み。
 行くぞ、と、キトラは立ち上がり、カーシャを背負って歩き始めた。

 が。

「……キトラ」
「……、何だ」
「ボク、やっぱり降りるよ」
「その足では、ロクに、歩けん、だろうが……ッ! 怪我人は、大人しく、黙って……ろ」
「むしろ、キトラの方が倒れそうなんだけど……」
 カーシャは不安そうにキトラを見る。体力のない彼にとって、人間を背負って長い距離を歩いたりするのは、はっきり言って、専門外な訳で。
 キトラは、明らかに、バテていた。
「……」
 遠目にベルダの広場が見えてきたところで、はたり、と足が止まる。
 ここから宿屋まで、てくてく歩いて10分ちょっと。普段なら何でもないその距離が、今日は、ひどく、遠い。
「……ちょっと休憩」
 荷物とカーシャを降ろし、地面に片膝を立てて座り込む。
「無理しちゃ駄目だよ」
「無理などしていないッ」
 ぎっ、と、キトラが睨む。呼吸が荒い。思った以上に辛そうだ。それでも「無理じゃない」と主張するキトラの強情さに、こっそりカーシャは溜息をついた。
(ホントに意地っ張りなんだから。……ま、ひとのこと、言えないけど)
 さて、ここからどうやって帰ろうかと考えるカーシャの視界が、不意に翳った。
 今日は雲一つない陽気、陽光を遮るものなどないはずなのに。不思議に思い、顔を上げると。
 そこには一人の男性が立っていた。彼の威容に、カーシャは思わず「わ」と声を上げた。
 大きい。
 樹海で遭遇する巨大熊を連想させる程、背が高い。
 年の頃は、二十そこそこといったところか。キトラと同じ黒髪赤目、しかも、両腕に術式起動用のガントレットを嵌めているところを見れば、彼もまた、アルケミストであるらしかった。
「……」
 彼は、口元を、大きなマフラーで隠すように埋めていて、その表情は窺えない。声を掛けてくる様子も無いし、近づいてくる様子も無いし、さりとて立ち去る気配もない。黙って、二人を、ひた、と見つめてくる深紅の双眸からも、いまひとつ、意志が読み取れない。対応に困ったカーシャはキトラを見たが、彼もまた、相手の顔を、困惑したように見上げている。
 ……そこへ。
「どうしたの」
 鈴を転がしたような、澄んだ、されど抑揚に乏しい声がした。一同が、一斉にそちらを向く。
 声の主は、大きな鞄を抱えた小柄な少女。どうやらメディックであるらしい彼女は大男の隣に並び、彼の袖を軽く引いた。
「そろそろ、戻ろう?」
 少女の言葉に、男はわずかに頷いて、カーシャとキトラに視線を戻す。
「……」
 少女はしばし思案して、ふと、カーシャの足に目を止める。
「怪我をしたの?」
「あ、うん。そうなんだ」
 なぜだかカーシャはあわあわと返事した。
「ボクたち、冒険者で。樹海の探索中に仲間とはぐれちゃって、ここまでは戻ってこれたんだけど、へばって動けなくなっちゃって。ちょっとここで休んだら、動けるようになるかなーって思ってたところに、このひとが来て……」
「そうなの……」
 呟いて、少女はしばし考え……。
「足、出して」
「え?」
「治療、するから」
「え? いいの?」
 いいの? と問いつつ、カーシャはずいっと怪我した足を出す。
「すごく助かる! ボクの足さえ治れば、宿まで歩いて帰れるもの。ねぇ、キトラ?」
「ああ……」
 茫洋と、キトラは答える。その様子を訝しく思いながらも、カーシャは少女に向き直って、ビシィ!と敬礼をした。
「お言葉に甘えて、お願いしますっ。えっと……名前……」
「カナ」
「カナちゃん? ボクはカーシャ。よろしくね」
 軽くこくりと頷いて、カナは手際よく治療を始める。その手腕は、シュタールのメディック・サリナスと比べても遜色ない。いや、落ち着き払った態度の分、彼女の方が巧く見える。
 サリナスって、腕はいいのに、おろおろあわあわしてるから、損だよなぁ。カーシャが心の裡でぼんやり呟いている内に、治療は終わった。
「調子は、どう?」
 問われて、カーシャはよいしょと立ち上がる。跳んだり跳ねたり足首を回したり。動かしてみても、痛みどころか違和感ひとつない。
「すごい! バッチリ治ってる。ありがとう~!」
 全身で感謝するカーシャに、少女はこくりと頷いた。カーシャはキトラの方を振り向いて、もう大丈夫だよ、と笑顔を向ける。が。
「あれ? キトラ?」
「……」
 返事もせず、ぼうっと佇むキトラの姿に、カーシャは眉をひそませた。近寄って、額を押さえて、思わずカーシャは悲鳴を上げた。
「ちょ、すごい熱! なんで黙ってたのさ!」
「熱なんて、出してないッ……」
 呻くように呟いてカーシャの手を振り払い、ゆらり、と立ち上がる。カナと大男、二人に向かって礼を言うと、鞄を肩に掛け、危なっかしい足取りで歩き出す。その後を、慌ててカーシャが追いかける。
 ……しばし、二人の背を見つめていたカナが顔を上げた。くいくい、と袖を引き、何事かを訴えるような眼差しで、はるか高い場所にある男の顔を見上げる。
 すると男は、まるで重さなどないかのように、ひょいっとカナを抱き上げた。小柄な彼女を右肩に乗せたまま、相変わらず無表情に、のしのしと歩き出す。

「キトラ! キトラってば! んも~、意地張ってないで、荷物こっちに渡して!」
「大丈夫だと言っているだろう!」
「全然大丈夫じゃないよ! ボクが怪我した時、隠してたら怒ったくせに!」
「それとこれとは、……!?」
 突如、キトラの身体が浮いた。
「なッ!?」

 振り仰げば、先程の大男が、キトラを、軽々と担ぎ上げているところだった。そしてそのまま左肩に乗せてしまう。思わずカーシャは、嘘、と呟く。重たい重たいキトラを、子供のように抱えて歩くだなんて。カーシャはあっけにとられ、……次の瞬間、弾けるように笑った。
「凄ーい! 力持ちなんだねぇ!」
 小走りに男の方へ駆け寄ると、肩の上のカナが、こくりと頷く。
「セオ、っていうの」
「このひと? セオさん?」
 カーシャは、ぱちぱちと目を瞬いた。そして。
「カナちゃんは、セオさんのこと、すっごく頼りにしてるんだね!」
 にぱっと笑顔で話しかけると、カナはわずかに微笑んで、再度、こくりと頷いた。
 彼女と反対側の肩の上で、キトラが真っ赤な顔をして「離せーっ」だの「降ろせーっ」だのと喚いてじたばた暴れているが、セオはちっとも堪えていない。変わらず無表情に、宿を目指してずんずん進む。思わずカーシャは吹き出した。普段、偉そうにしているキトラが子供のように扱われて慌てる姿など、そうそう見られるものではない。他のメンバーも、ここにいればよかったのに。そう思って、カーシャは、わずかに心を曇らせた。
「皆、大丈夫かなぁ」
「……大丈夫」
 柔らかな声が降ってきて、カーシャは顔を上げた。カナと、目が合う。
「……うん!」
 朗らかに頷いて、カーシャはセオの後を追う。宿屋の看板が見えてきた。迷宮に残してきた仲間のことは心配だが、案じても始まらない。まずは自分たちが元気になることだ。そうでなければ、戻って来た仲間を迎えることも、逆に仲間を捜しに行くことも、できはしないのだから。
「カナちゃん、セオさん、本当に、ありがとう」
 カーシャの言葉に、カナは三度、頷いた。

挿絵02

某日某所にて、TOMOさんと世界樹話で盛り上がりまして。

お姫様抱っこ良いですよね
  ↓
でもキトラは腕力ないから無理っぽいです
  ↓
おんぶくらいならなんとか
  ↓
おんぶもロマンですよ!
  ↓
怪我したカーシャをおんぶしてぶつくさ文句言いつつ必死に歩いたり
  ↓
で、無理が祟って寝込んだり
  ↓
寝込んでも『何でもないッ』『熱なんかないッ』とか言ってそう
  ↓
セオさんは力持ちなのでキトラも軽々と担げそうです
  ↓
きっと熱出して倒れたキトラを運んでいるのですね
  ↓
なんかもう物語になりつつありますね
  ↓
じゃあTOMOさんはイラスト、私は文章でおひとつ

……という流れでこの物語は出来上がったのでした。

それでこんな素敵絵を頂いてしまった訳なのですよ!
もう幸せすぎて幸せすぎて!
イラストを頂いた日は一日中ニヤけてました。
きっと不審人物オーラ全開だったに違いありません。
それはともかく(……)
共同作業ばんじゃい!
他所のお子様とのコラボばんじゃい!
また機会があればやってみたいです。

TOMOさん、ありがとうございました!


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