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仕切り線1

【10*良い人に捧げるバラード】
地下16階攻略中の作戦会議。サリナスがメイン?

「枯レ森に住む人外の生物、モリビト。樹海を調査する以上、彼らとの戦いは避けられぬものになるだろう。そこで、腕の立つ君たちにモリビト殲滅を依頼したい」

 エトリアを治める執政院から下された、新たな指令。
 モリビト殲滅作戦を受領したシュタールのメンバーは、今後の作戦を話し合うため、宿屋の一室に集まったのだが……。

 珍しく、サリナスが、激高した。
「本気なんですか!?」
 声高に叫んで、円卓を叩く。
「樹海探索のためにモリビト達を殲滅しろ、だなんて! そんな指令を出す執政院も執政院ですが、それを引き受ける貴方も、どうかしている!」
 するとカーシャは、ぷ、と頬を膨らませた。
「だって、引き受けなきゃ、例の石板は渡さないって言われたから。石板がなきゃ、先へは進めないんだもの、仕方ないじゃん」
「モリビト達を殺してまで、樹海探索する必要があるんですか? 僕は賛同しかねますッ!」
「なんで殺さないといけないのさ?」
「なんでって、執政院からの命令で……」
「執政院なんて、無視しちゃえばいいじゃん」
 カーシャは、にっ、と健康的な笑顔を浮かべ、サリナスの視線を真っ正面から受け止めた。
「執政院が殺せ殺せ言ったって、探索するのは執政院じゃなくて、ボクたちなんだもの。石板さえ貰えれば、あとはもう、こっちの好きにしちゃえばいいよ。違う?」
 でも、と、サリナスは戸惑いを隠せない。
「執政院に逆らったら、探索を禁止されてしまうかもしれませんよ?」
「殺さないイコール逆らう、って考えるからいけないんだよ」
 快活にカーシャは笑う。
「執政院に『まだやってないの?』って言われたら『今、頑張ってるところなんです』とか何とか適当に言っちゃえば大丈夫だよ。それに」
 意味ありげに言葉を切って、カーシャは上目遣いでサリナスを見る。
「冒険は、禁止されたからってやめちゃうような種類のモンじゃないっしょ?」
 そこまで言われてしまっては、サリナスはグゥの音も出ない。その隣で腕を組み、しかめっ面をして座っていたキトラが、ついに我慢できなくなって、ぷっ、と吹き出した。
「くっ、くくく……。……はははははッ!」
「何がおかしいんですかッ」
 真っ赤になって怒鳴るサリナスに、キトラは腹を抱えて笑い続ける。かわりにシェーヴェが、やはり笑いながら答える。
「あの指令をまともに受けて、真剣に怒ることができる。や、サリナスさんって、本当に、良い人ですよねー」
「良い人、って」
 サリナスは思わず拳を握る。
「普通はまともに受けるでしょう! 相手は街の最高権力者ですよ?」
「うん。そうだな。それでいい。そうで無くては、サリナスじゃない……くくく」
 身体を折り曲げるようにして笑い続けるキトラに、サリナスはすっかり不機嫌になってしまった。
「褒めてるんですか、けなしているんですか」
「もちろん、褒めているんだよ。本当にお前は良い奴だ」
 ようやくキトラは笑うのを止めて、顔を上げる。左手で頬杖をつき、そういう訳で、と、話のベクトルを元に戻す。
「探索はこれまで通り続ける。モリビトの領域に入ったなら、まずは、先方との話し合いを最優先。それでいいな?」
「そうですね。それがいいでしょう」
 シェーヴェは手にしたリュートを軽く鳴らして、歌うように言う。
「ヒトとモリビトが交わした、古き盟約……ヒトは、大切なことですら、簡単に忘れてしまう生き物ですけれど……過去とまったく同じ過ちを繰り返すようなことだけは、避けたいところですものね」
 あれ? と、カーシャは首を傾げた。
「何の話? 同じ過ちって?」
「んー。サリナスさんみたいな良い人がいるから、世の中まだまだ捨てたもんじゃないよね、ってことです」
「ふーん?」
「やっぱり、全然、褒められた気がしないんですけど……!」
「やだなぁ、気のせいですよー」

 かくして『モリビト殲滅作戦に従ってるフリ大作戦』は実行に移されるのだった。


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