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仕切り線1

【13*キトラ療養中】
地下21階の事件の4日後。
宿屋でのお話。

 気がつくと、ベッドの上で、白い天井を見上げていた。

 どうやら熱があるらしく、頭がぐらんぐらんする。気分が悪い。左手で額を押さえようとして、左腕の感覚がないことに気付く。
「……あー……」
 そうだった。
 ……思い出した。
 先の探索で、それはもう見事にすぱりと、左腕を切り落とされたのだった。カーシャは「くっつければどうにかなる」とか言っていたが、やはり無理だったのだろう。ある程度、覚悟はしていたけれども、……なんだか無闇に泣きたい気分になって、右手で顔を覆った。
 あまりはっきりとは覚えていないが、あの時……、ずいぶんみっともなく取り乱したような気がする。情けないやら腹立たしいやらで、畜生、と呟くと、「気がつきましたか」柔らかな声がして、シェーヴェの笑顔が見えた。
「おはようございます。どんな調子ですか」
「最悪だ」
「でしょうねぇ」
 言ってシェーヴェは明るく笑う。面食いな女であれば、一目見ただけで恋に落ちるであろう笑顔。どうしてこの状況で笑えるのかと怒鳴りたくなったが、生憎、それだけの体力はない。キトラは大きく息を吐いた。
「俺は……どのくらい、眠っていた?」
「4日ほど。ずっと、カーシャさんが、つきっきりで看病してました。今は、そこで寝てますけど」
 そこ、と言われて視線を動かすと、腰の左側に、くしゃくしゃの赤毛が見えた。脇のスツールに座り、ベッドに突っ伏したまま、眠っているらしい。思わず、はぁ、と溜息が漏れた。
「馬鹿が。無理しやがって」
「仕方ありませんよ。あんなに憔悴した貴方を見た後ではね。……起こしましょうか?」
「いや、いい。……で? 他の面子はどんな具合だ?」
 聞くと、シェーヴェはくすりと笑んだ。
「探索にも行かずにのんびりしてます。貴方とカーシャさんがいないと、危なっかしくて、探索なんか行けやしません」
「他のチームと組んで出かけることだって、できただろうに」
「いやいや。誰が欠けてもシュタールじゃないっていうのは本当ですよ。ですから、ねぇ? ちゃっちゃと治して、早いとこ、復帰してくださいね」
「ふん。……もう少し、寝る」
 よいしょ、と布団を引き寄せ潜り込む。相変わらず頭が痛い。目を閉じると、速やかに睡魔がやってきた。おやすみなさい、と呼びかける声が、ひどく遠くに聞こえる。そうして眠りの闇に引きずり込まれるのに、さほど時間はかからなかった。


仕切り線2
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仕切り線4