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仕切り線1

【18*もぐりこむ】
地下23階探索中。
なかなか寝つけない夜のこと。星野さんとこっそりコラボ。

「それでは、今日も一日お疲れ様でした! 明日は地下23階を探索するよ! 朝5時に準備を終えて食堂集合でよろしくっ!」
「お疲れ様です」
「ご苦労」
「……」
「お疲れ様でした~」

 樹海探索ギルドのひとつ『シュタール』では、夕ご飯を済ませた後は自由時間と決まっている。散歩に出かける奴もいれば、熱心に商店を覗きに行く奴もいるし、酒場へ一杯ひっかけに行く奴もいれば、路上ライブを始める奴もいるし、明日に備えて早々に寝てしまう奴もいる。自由時間の過ごし方は人それぞれ、決して干渉してはならない、というのがシュタール鋼の掟……なのだけれど。

 その日、カーシャは、夜中になっても眠れなかった。
 正確に言うならば、うとうとし始めた時にひどく怖い夢を見てしまい、目が冴えてしまったのである。
 怖い夢がどんな内容だったかは忘れてしまったけれども、その時感じた恐怖感だけが、べっとりと心にこびりついている。このままひとりで寝るのはあまりにも怖い。どうしようかなと考えて、カーシャは、枕を抱えて部屋を出た。

 薄暗い廊下を歩きながら、カーシャは思う。悪夢というものは、どうして、必要以上に恐ろしいのだろう。悪夢よりも怖いことなんて、樹海へ行けばどこにでも転がっているというのに、今は、内容も不明な悪夢のことが怖くて怖くて仕方ない。だから。

 とある部屋の扉を、遠慮がちにノックする。
 ……返事が無い。
 もう一度、扉を叩く。
 やはり、反応なし。
 さすがに寝てるよなぁ、と思い、来た道を引き返そうとした時に、かちゃり、と鍵の開く音がした。


挿絵01
 わずかに開かれた扉の隙間から、半分寝ぼけたキトラの顔が覗いた。
「……なんだ、お前か……」
 どうした、と問われ、眠れないの、と答える。
「……あぁ? ……そんなんでいちいち来るなよ……!」
「いっしょに寝ても、いい?」
「……」
 キトラは、不機嫌そうに目をこすりながら、入れ、とドアを足で押し開けた。

 カーシャを招き入れ、扉に鍵を掛けるなり、キトラはベッドへ直行し、布団に潜り込んでしまった。
 キトラは、大柄な身体の割に、体力も腕力も強くない。必要に迫られれば徹夜することもあるけれども、基本的には、しっかり寝ないと翌日の探索に支障をきたしてしまう。ギルドの司令塔が寝不足でボーッとしていたのでは、それこそ全滅の危険大だ。
 怖さのあまり、ここまでやって来てしまったものの、悪かったかな、とカーシャは枕を抱え直した。
 すると。
「……いっしょに寝たいんじゃないのか」
 眠気を帯びた声で不機嫌に言われて、カーシャは首を傾けた。
「いいの?」
「そのために、わざわざ来たんだろうが」
 布団の端が、のっそりと持ち上げられる。ほら、来い、とぶっきらぼうに言われて、カーシャは顔を輝かせた。小声でわーいと呟いて、いそいそと布団に潜り込む。

 しばし、沈黙。

 やがて、我慢できなくなったキトラが、ぼそりと呟く。
「お前……無闇に体温高いな……」
 暑い、とキトラが布団をぱたぱたさせると、冷たい空気が流れ込んで来た。思わずカーシャは眉をひそめる。
「キトラが体温低すぎるんだよ。指先とか、体温あるの?ってレベルじゃない。そんなんでガントレット嵌めるのって、大変じゃない?」
「うるさいな……」
 不満そうに呟く声は、もにょもにょと不明瞭。おそらくは、もう、半分寝ているのだろう。カーシャはなんだかうきうきした気分になってきて、こうなったら、徹底的にキトラを暖めてやろう!と決心した。怖い夢のことなんてすっかり忘れて、心底楽しそうに、身体をぴったりくっつける。
 ……キトラは何も言わない。
 拒否されないということは、了解ということだ!
 勝手に自分の都合の良いよう解釈し、カーシャはうきうきと、キトラのひとつしかない手を、両手でしっかり握りこんだ。

   *

 翌日。
「いやぁ、驚きましたよ。朝起きたら、キトラさんとカーシャさんが、手に手をとって眠っているんですもの!」
「いや……あのな……シェーヴェ?」
「や、いいじゃないですか、迷宮探索を通して絆を深める二人! それだけで新曲が何曲もできちゃいそうですよ!」
「別に何も……」
「いやいやいや! 仰らなくともわかります! 人生、愛と趣味とお金があればオールオッケーですものねっ! あ、他の部屋の皆さんには内緒にしておきますから、大丈夫ですよ!」
「……」

 実は個室じゃなかったんだよという話。


仕切り線2
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仕切り線4