「それでは、今日も一日お疲れ様でした! 明日は地下23階を探索するよ! 朝5時に準備を終えて食堂集合でよろしくっ!」
「お疲れ様です」
「ご苦労」
「……」
「お疲れ様でした~」
樹海探索ギルドのひとつ『シュタール』では、夕ご飯を済ませた後は自由時間と決まっている。散歩に出かける奴もいれば、熱心に商店を覗きに行く奴もいるし、酒場へ一杯ひっかけに行く奴もいれば、路上ライブを始める奴もいるし、明日に備えて早々に寝てしまう奴もいる。自由時間の過ごし方は人それぞれ、決して干渉してはならない、というのがシュタール鋼の掟……なのだけれど。
その日、カーシャは、夜中になっても眠れなかった。
正確に言うならば、うとうとし始めた時にひどく怖い夢を見てしまい、目が冴えてしまったのである。
怖い夢がどんな内容だったかは忘れてしまったけれども、その時感じた恐怖感だけが、べっとりと心にこびりついている。このままひとりで寝るのはあまりにも怖い。どうしようかなと考えて、カーシャは、枕を抱えて部屋を出た。
薄暗い廊下を歩きながら、カーシャは思う。悪夢というものは、どうして、必要以上に恐ろしいのだろう。悪夢よりも怖いことなんて、樹海へ行けばどこにでも転がっているというのに、今は、内容も不明な悪夢のことが怖くて怖くて仕方ない。だから。
とある部屋の扉を、遠慮がちにノックする。
……返事が無い。
もう一度、扉を叩く。
やはり、反応なし。
さすがに寝てるよなぁ、と思い、来た道を引き返そうとした時に、かちゃり、と鍵の開く音がした。 |