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05
 翌朝。目がくらみそうなほど晴れた空の下、広くなだらかな草原を歩いていた一行に、突如、強い風が吹きつけた。ウルの悪ガキ四人組は、荷を、髪を、あるいは服を押さえて、風が通り過ぎるのを待った。
「……ふぅ。すごい風だったね」
 くしゃくしゃになった黒髪を手櫛で整えながら、ラーンが笑う。
「でも、あれは、もっとすごいね!」
 彼女が指で示したその先には、灰色の石を積んで造られた建物群。
 どっしりと重厚な四角い建造物、その左右には高い円柱塔が建っていて、それぞれのてっぺんに、金糸で守護獣を刺繍した真っ赤な旗が、強風に吹かれて踊っている。
 ラーンは「すごいなぁ」を連呼しながら建物を眺めている。
「あれが噂のサスーン城? 大きいね! ウルには、あんな建物、なかったもんね」
「そうね、とても立派ね……」
 はしゃぐラーンとは対照的に、ユールは憂鬱そうに溜め息ひとつ。
「あのお城のどこかに、例の化物がいるのね」
「嫌だな」と、ナータ。
「楽しみで仕方ない」と、ルーン。
 それぞれがそれぞれの思いを口にしている間に、城門前に到着した。
 いつもなら閉ざされているであろう重厚な門は全開で、武器を携えた守衛もいない。……そもそも、周辺に人のいる気配がない。ジンが復活したせいなのか、みんな幽霊になってしまったせいなのか。人気のない城門はがらんとして物寂しい。
 けれど、それでも。
 山あいの村から出てきた四人にとって、城はあまりにも大きく、あまりにも高かった。一行はぽかんと口を開けたまま、門と、その背後にそびえる建造物とを眺めていた。
 すると。
 どしぃん! ばしぃん! 
 突如、凄まじい地響きが、空気と大地を揺るがせた。
「なに?」
「地震かっ?」
「いや……」
 うろたえるユールとナータを尻目に、ルーンはとびきり冷静に、起こっていることを分析する。
「この音、この揺れ。どうやら、城の中で、誰かが暴れているようだ」
「ジンかな」
「それなら、早くどうにかしなきゃ!」
 開けっぱなしの門からは、灰色の石を埋めて造った道が、中庭を貫きまっすぐ伸びて、城の入口へ続いている。
「急ぐぞ」
「ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ!」
 脇目もふらず走り出すラーンとルーンを、ユールが声を上げて制止する。
「ジンとぶつかる前に、サラ姫を探さなくちゃいけないでしょ!」
「探しながら進めば一石二鳥! 大丈夫っ!」
「大丈夫じゃないー!」
 自信たっぷりに親指を立て走るラーンに怒鳴りつつ、ユールも急いで後を追う。その後ろ、最後尾にナータが続く。
 どかーん、ばしーん、と周囲を揺るがすその音は、どうやら本城から響いている様子。もしあれがジンだとしたら、いきなり向かうのは危険すぎる。そこでまず、左右に建つ塔の探索から始めることにした。
 高い高い塔は、どうやら、王族や高官たちの居室であったらしい。ジンに荒らされた後なのか、どの部屋もしっちゃかめっちゃか。おまけに、姫どころか、人っ子ひとり見つからない。最後の部屋の探索を終えた一行は、螺旋状に巡らされた階段を降り塔を出ると、中庭で円陣を組んで相談を始めた。
「お姫様、塔にいなかったってことは、お城のどこかにいるのかしら? それとも、サスーンにはいないのかしら」
「どうする? 一旦カズスに戻るか?」
 ナータの提案に、いや、と首を振ったのはルーン。
「ここまで来たのなら、城へ乗り込んだ方がいい。姫がいる可能性が高いし、何より、この振動の正体を見極めなければ」
「そうだよね。放っておいたら、お城がバラバラになっちゃうかもしれないし」
 こうなったら、絶対に、年少組二人は退かない。
 仕方ないわね、と、ユールは覚悟を決めた。
「お城へ行きましょう。けど、わかってるわね! サラ姫を見つけるのが先よ! もし、サラ姫より先にジンに出会ってしまったら、全速力で逃げてカズスへ戻る。いいわね!」
「え~! 逃げるの~?」
「当たり前でしょ! 私は『この戦いに命を賭ける』みたいなしんどい真似はやりたくないの。どんなにみじめな目に遭ったって、死んだり、再起不能な怪我さえしなければ、再挑戦はできるんだから! いいわね!」
 こうなったら、絶対に、ユールは退かない。年少組は「わかった」「はーい!」と挙手をして、ナータは「ま、ぼちぼち頑張るか」と呟いた。

  *

 世界に存在する3つの王家の中で、サスーン王家の歴史は最も浅い。それでも起源は数百年前まで遡ることができ、この城も、相応の年月を経ている。
 はっきり言ってしまうと、城は古い。それが断続的な揺れにさらされているのだから、いい心地はしない。
 ヒヤヒヤしながらも、城の1階、震源地と思しき部屋の前へ辿り着く。
 その部屋には、窓も扉もあるにはあるが、木の板でしっかり塞がれている。その上、立派な椅子だの、大きな卓だの、様々な日用品でバリケードが築かれている。どうやら、中にいる何者かは、この密室から脱出するべく、壁をブチ破ろうと暴れているらしい。
「この中にジンがいるのかな?」
 ラーンの問いに、ユールは「違うと思う」と肩をすくめる。
「お城をどうにかしちゃうようなすごい魔法使いが、こんなバリケードをどうにかできないってことはないと思うわ」
「だとしたら……」
 言ってナータは、壁を見る。何度も衝撃を受けた壁はぼろぼろと欠け、あちこちひび割れている。
「中にいるのは誰なんだ? ここでこうやってボケッと見てても大丈夫な相手なのか?」
 呟いた、次の瞬間。
 どがぁあん!
 ひときわ派手な音を立てて、壁が崩壊した。
 砂埃のむこうに人影を認めた四人は、とっさに武器を手にした。緊張が走る。
 瓦礫と化した壁を踏みつけ立っていたのは、様々な色の薄い布を何枚も重ねた衣装に身を包んだ美女だった。
 真夏の昼空を閉じ込めたような青い瞳、腰まで伸ばした茶金の髪。手足はすらりと長くしなやかで、高貴な雰囲気を漂わせた美女だが、きりりと濃い眉といい、真一文字に結ばれた唇といい、手に握られたヌンチャクといい、……なんだかとっても、強そうだ。
 どう反応してよいかわからず立ち尽くす四人。
 すると女性はバリケードを踏みつけながらこちらへ歩み寄り、ルーンの手をひしと握って歓声を上げた。
「脱出成功~! ふふふ、このわたくしが大人しく閉じ込められていると思ったら大間違いなんですわ!」
「あ……あの……」
「見たところ、あなたがたは旅人のようですね。ここでお逢いしたのも何かの縁、一緒に封印の洞窟へ参りましょう!」
「封印の洞窟?」
 ルーンが眉をひそめると、女性は「そうなのです」と満面の笑みを浮かべた。
「封印の洞窟は、文字通り、ジンを封印していた洞窟ですの。大地震によって封印魔法が弱まり、復活を果たしたジンは、城の者をこき使って洞窟を埋め、自身の復活を完全なものにしようとしているようですが……わたくしが自由になったからには、そううまくは参りません。目にもの見せてやりますわよ!」
 言って拳を突き上げる彼女の指には、素朴な銀の指輪がはめられている。ルーンは困惑しきった顔で、まさか、と呟く。
「……あんた……もしかして」
「ああ、自己紹介が遅れてしまいました。わたくし、サスーン国王ダウの一人娘、サラ・アルテニーと申します。ミスリルの指輪を持っていたために、あの部屋に閉じ込められてしまったのです」
「ああ……それは……知ってた……が」
 青ざめた顔をして呟くルーン、しかしサラ姫はお構いなしにどんどん喋る。
「さあ、洞窟が完全に埋められてしまう前に、ジンを再封印してしまいましょう。さあ参りましょう、今すぐ参りましょう、どんどん参りましょう」
「ちょっと待てー!」
 たまらず叫んだのはナータ。
「俺達は、カズスからここまで歩いて来た上に、城中走り回ってヘトヘトなんだぜ! 今すぐ出発なんて無茶だ!」
「いいえ、大丈夫です! 少なくとも私は大丈夫です!」
「自分を基準に考えるなっつーの!」
「ことは一刻を争います。ぐずぐずしている暇はないのです。それに、クリスタルに選ばれた戦士なら、嘘でも『徹夜だって平気』くらいのことを言わなくては!」
「……」
 威厳にあふれたその言葉、あまりに高飛車なその態度に、ナータは反論できずにうぅ~と唸る。そこへルーンが割って入った。
「……なぜ『クリスタルに選ばれた戦士』のことを知っている? そしてなぜ、それが俺達だとわかった?」
 ルーンはサラ姫を睨む。ルーンの方が頭ひとつ分背が低いので、見上げる格好になってしまうのが少し悲しいが、真剣さは伝わったらしい。サラ姫は笑顔を消して、まっすぐにルーンの瞳を見た。
「それは、あなた達の姿が、予言にある通りだったから、ですわ」
「予言?」
「わたし達の姿?」
 4人は様々な質問をしようと口を開きかけたが、サラは手を突き出して「詳しい話は後程」と制した。
「事態は本当に切迫しているのです。さあ、わたくしについてきてくださいませ」
 サラ姫は足音高く方向転換、こちらを顧みることなく、決然と、堂々と、歩き出す。
 4人は予言についてもっと知りたいと思ったけれども、今は本当に急がなくてはならないらしい。彼女の言う通り、封印の洞窟へ向かうことにした。
NEXT→ 06*封印の洞窟に続く
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