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FF3おはなし11

 デッシュを正式に(?)仲間に加えた一行は、早朝にカナーンを出発。爽やかな風吹く草原をまっすぐに南下し、なだらかな丘にさしかかる。
 ゆるやかな傾斜の続く道は緑豊かで歩きやすく、のどかな雰囲気ではあるが、普通の植物のフリをして突然襲ってくるマンドレイクや、小鬼のような姿をしたレプラホーンなど、手強い魔物がどんどこ出てくる。中でも苦労したのは、緑の身体に黄色の縞模様を持つ奇妙なトカゲのバジリスク。こいつの鋭い角で攻撃されると、戦闘中であるにも関わらず、突然眠くなってしまう。さすがに、全員熟睡しているところを襲われて全滅……ということにはならなかったが、ヒヤリとさせられたこともしばしば。必死に魔物を退け、途中で休憩して食事をし、太陽が西に傾きかけたところで、ようやく、丘の頂上に辿り着いた。
 うっそうと茂る緑の木々や、ゴツゴツした岩壁に塞がれていた視界がぱっと開けた瞬間、一行は歓声を上げた。丘の北西に広がる、青い大きな水たまり。きらきらと日の光を反射しながら、穏やかに波打っている。
 ルーンが「海だ」と呟くと、隣でナータが手を打った。
「そうか、これが海か!」
「想像以上に広いわねー」
「うん、広いし、青いねぇ! すごーい!」
「……」
 会話を聞いていたデッシュは、おそるおそる「もしかして」と訊ねる。
「あんたたち、海は初めて……なのか?」
 四人は揃って頷く。
「なんてったって、山育ちだから」
「ねぇ?」
「行商人のおっさんや、昔あちこち旅してた奴から話は聞いてたから、海がどういうものかっていうのは、だいたい想像してたけど……やっぱり本物は違うなー」
「うん。うん。迫力あるよねー」
「待てよ」
 はた、とルーンが気づく。
「と、いうことは、デッシュ、お前は海を見たことがあるんだな? 俺たちのように、ずっと内陸に住んでいた訳ではない」
「ん? ああ、そっか、そういうことになるか。うん。有力な情報をありがとうっ!」
 びっ、と敬礼のような仕草をして礼を言うデッシュに、ラーンが「ねーねー」と声を掛ける。
「別に、急いで思い出さなくったっていいんじゃない? ふるさとのこととか、家族のこととか、大切な人のことを忘れちゃってるのは辛いことかもしれないけど」
「……そんなんじゃない」
デッシュにしては珍しく、厳しい口調。深い琥珀色の瞳が、強い光を帯びて煌めく。ごう、と風が逆巻いた。  四人は慌てて身を屈め、服や荷物を押さえたが、デッシュだけはピンと背筋を伸ばしたまま、まっすぐ前を睨んでいる。まるで、海のむこう、はるか彼方にある答えを、見据えているかのように。
 ……やがて、風がおさまった。
 四人が心配そうに見守る中、デッシュは、ゆっくりと真顔のまま振り返り……。
「なーんてな!」
 ニヤッと不敵に笑ってみせたかと思うと「そんじゃ、張り切って行きますか!」荷物を背負い、一目散に駆け出した。
「え?」
「え?」
「待ってよー!」
 我に返った四人は、慌てふためきながら彼を追い、丘を降りていった。

 海賊ビッケのアジトは、カナーンの南、海ににょっきり突き出した岬の根元部分。灰色がかった緑色の岩壁に寄り添い建っている、くすんだ色の建物だった。おっかなびっくり中に入ると、いかにもな雰囲気を漂わせた筋骨たくましい男が二人、チェス盤を挟んで座っている。
 二人は一行に気づくと、にっこり笑い(!)、いらっしゃい、と中へ通してくれた。
 建物の奥は岩壁をくりぬいて造った無骨な洞窟。とはいえ道は広く、天井も高い。行き交う人も至って普通で、一行はひどく戸惑った。
「海賊のアジトっていうから、もっと、秘密っぽいところだと思ってたのにな」
「そうだよねぇ。なんか意外! ジンが封印されてた洞窟と違って、雰囲気も暗くないし」
「けど、気のせいかしら。ここの人達、元気がないわね」
 ユールの指摘通り、何か心配事でもあるのか、すれ違う人々の表情は、どことなく暗い。
 笑顔を振りまき、愛想よく挨拶をして、ニコヤカに話しているうちに、だんだんと事情がのみこめてきた。
 海という、とんでもない大物相手にしのぎを削る海賊達は、勇敢な一方で、非常に信心深い人達でもある。彼らが守護神に祀っているのは水神ネプト。波を鎮め、海を守る水竜は、大地震の被害をも最小限に抑えてくれた……と長老は語る。
「じゃが、先日から、急に、ネプト竜が暴れるようになってのぅ。入り江につないであった船という船を、バラバラにしてしもうたんじゃ。海賊ビッケの栄光の歴史も、これでおしまいなのかのぅ……」
 アジト内の、食堂と酒場を兼ねた店に入った五人は、海賊達の無気力さが伝染したのか、すっかりぐったりしてしまっていた。
「どうする〜?」
 木の丸テーブルにだらしなく突っ伏したまま、ナータが気の抜けた声を出す。
「どうするもこうするも、船がないんじゃあ、なあ……」
 デッシュも無気力に溜息をつく。
「……前向きに考えてみましょう」
 ユールが、シドからもらった地図を広げる。
「あの大地震から助けてくれるような優しい竜が、どうしていきなり暴れだしたのかしら」
「優しい竜、か……」
 適当に注文したら運ばれてきたジュース(不気味な黄色をしている)をすすりつつ、ルーンが呟いた。
「どうせ、魔物か何かが、ちょっかいを出して怒らせたんだろう」
「もし、そうだったら……」
 ラーンが身を乗り出して、岬の先端部分をビシッと指す。
「さっそく明日、神殿に行って、怪しいところがないかどうか、調べてみよう!」
「そうね、そうしましょう」
 ユールは地図をくるくる巻いて、鞄の中に片付けた。
「今日はゆったり宿に泊まって、明日に備えましょう」
「了解!」

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