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FF3おはなし13

 静まり返った海を見て、海賊達は大喜び。アジトに戻った一行を宴に誘い、あれも食え、これもうまいぞと、様々な料理を勧めてくれた。その上、たった一隻壊されずに残っていた船『エンタープライズ号』を気前よく譲ってくれ、船の動かし方、海にまつわる伝説など、様々なことを教えてくれたりもした。
 聞いた話の中で気になったのは、生まれつき盲目であるかわりに予言ができるという『グルガン族』の話。次の目的地・アーガス城の近くにグルガン族の集落があると聞いた一行は「アーガス城の次はそこへ行ってみよう!」と盛り上がった。
 そんな中、ふと、ラーンが呟いた。
「グルガン族って、どこかで聞いたことがある気がするんだけど」
「そういえばそうだな。何だったっけ……あ!」
 何かを思い出したナータが鞄を探った。
「あったー!」と叫びながら取り出したのは、サスーンで譲ってもらった一冊の本。
「確か、グルガン族の予言をまとめた本だって言ってた! 気がする!」
「そうなの? ちょっと見せて」
 ユールは興味津々読み始めたが……。
「……ずいぶん難しいことが書いてあるのねぇ」
「だろ? 大切なことが書いてある、ありがたい本だっつーことはわかってるんだけど、イマイチ読む気しね-んだよな」
「そう言わずに、我慢して読んでみましょ。何か重要なことが書いてあるかもしれないし」
 むー、と唸りながら、ユールはページをめくっていく。
「世界を構成する風、火、水、地の四柱、その象徴としてのクリスタル……神代、古代、現代の三世紀に渡り存在する世界の化身……。よくわからないわね」
「三世紀って何だ?」
 首をひねるナータに、デッシュが「時代の区分だな」と答えた。
「神代ってのは、世界に神様がいた時代のことだな。世界はとても豊かで平和だったけど、ある日、いきなり神様がいなくなっちまったもんだから大騒ぎになって、人間達は必死に機械を開発して生き延びた。それが古代。機械文明の時代だな。でもってその文明が崩壊した後の時代が今、現代って訳だ」
「へえー」
「そうなんだ」
「知らなかったわ」
「ホント、記憶喪失のくせに、そういうのには詳しいんだな」
「いや〜、ははは」
 皆に言われ、機嫌上々のデッシュだったが。
「どうして機械文明は崩壊しちゃったの?」
 そう問われると「……それは」と言ったきり、黙り込んでしまった。
 一方、予言書を読み進めていたユールも「これ以上は無理っ!」と投げ出してしまったので、そのまま読書会はお開きとなった。

 エンタープライズは、小さいけれどもしっかりした造りの船だった。船に慣れていない一行の(主にナータの)操作でも、機嫌良くすいすい進む。風の力を借り、内海を北東へ往くこと丸二日、魔物や船酔いに悩まされることもなく、一行は船着き場に辿り着いた。
 桟橋から西方を眺めれば、緑の草原のただなかに、円柱形の塔を抱えた琥珀色の城が見える。
 錨を下ろし、ロープで船を固定し終わって、ナータは額に光る汗を拭った。
「あれがアーガス城か。思ったよりは近かったなー」
 鞄の中身を確認し終えたユールが、そうね、と頷く。
「あそこで、新しい情報が手に入るといいんだけど。世界を救うためにどうすればいいのか、残りのクリスタルはどこにあるのか」
 新しい場所に胸を躍らせる一行だったが……。
「あの城、人気がないな」
 ルーンが水を差すようなことを言う。
「最初にサスーンへ来た時と、似たような感じだ」
 あんなに大きく立派なお城に誰もいない、なんてことが、そうしょっちゅうあってたまるか。一行はルーンの勘が外れることを祈りながら歩いたが、広い広いアーガス城には、人っ子ひとり、いなかった。

 グルガン族の谷という、第二の目的地を決めてあったのは、不幸中の幸いだった。地図によれば、グルガン族の谷はここから西、森と山を越えた先。一行は、麻痺毒を持つパラライマや、半鳥半獣のグリフォンを退けながら、ずんずん歩き続けた。
 夕日が西の空に沈む頃、山道にたたずむひとりの老人と出会った。両の目は閉じられたままだが、それでも彼は、一行が来たことを察して穏やかな笑みを浮かべ、深々と会釈した。
「よくぞ参られました、光の戦士殿。あなた達をお待ち申し上げておりました」
 落ち着いた物腰、いかにも人望のありそうな立派な老人に頭を下げられて、一行はうろたえた。
「あ、ありがとうございます」
「あなたはグルガン族のひとなの?」
「目が見えないかわりに予言ができるって、本当なのか?」
「待っていたって、どういうことなんだ?」
 矢継ぎ早に質問を浴びせかけられながら、老人はふわりと笑う。
「今のあなた方に必要なのは、まずは十分な休息でございましょう。さあ、ご案内致します」
 老人が示した先は、夕闇に沈む谷の底。深い深い闇の中、明かりがいくつか灯っているのが見える。どうやらあれが、グルガン族の集落らしい。
 一行は、質素ながらも心のこもった歓待を受けた後、何人もの予言者に会った。性別や年齢こそ様々だったが、噂通り、皆、一様に盲目であるようだ。彼らはまるで詩を朗読するかのように未来を語ったが、いずれも「土のちからが三つのちからを封じた……」「生きている森、いのちある森がお前達を呼んでいる」といった内容で、ほとんど理解することはできなかった。
「あの本が、どうしてあんなに意味不明だったのか、よ~くわかったわ」
 げんなり顔でユールが呟く。
「グルガン族の予言をそのまま書き記したら、どう頑張ったって、ああいう文章になってしまうわね」
 謎掛けのような言葉の洪水に頭がクラクラし始めた頃、一行は、集落の最奥、長老の屋敷に通された。
 苔色のローブをまとって祭壇上に座した長老は、ひどく痩せてしわくちゃで、途方もない年寄りのように見えた。けれど、一行が来たことを察すると、にこりと柔和な笑みを浮かべ「よくぞ参られた」と響く声で挨拶した。
「教えてください」
 前に出たのはユール。
「私たちは、風のクリスタルの啓示を受けて旅出ちました。けれど、何をどうすればいいのか、全然わからないんです」
 すると老人は目を開いた。冬空色の、盲いた瞳にひたりと見つめられて、ユールは黙り込んでしまった。
「慌てるでない」
 穏やかに、老人は言った。
「そなたたちは未だ、世界の真の姿すら知らぬ。旅は始まったばかりなのだから、急ぐ必要はない。今すぐ世界を救おうなどと気負うでないぞ」
 思わずユールは頬を染め、素直に「はい」と頷いた。
「……ずっと、気になっていることがあるんだが」
 横からルーンが口を挟んだ。
「サスーンのサラ姫は、俺たちを見て『予言通りの姿をしていたから、すぐに光の戦士だとわかった』と言っていた。そして、グルガン族は、未来を見ることができるという。そんな話を聞いていると、世界にははっきりと定まった未来があって、俺たちはそれをなぞっているにすぎない、そんな印象を受けるんだが」
「……」
 少しの沈黙の後、長老は、確かに、と頷いた。
「世界には、運命とでも呼ぶべき、大まかな流れが存在する。が、それは絶対ではない。時に運命の流れから外れ、予測不可能な波を起こすものもある。その最たるものがそなたじゃ、デッシュ」
「へ?」不意に名を呼ばれたデッシュは、目を丸くして、自分で自分を指した。「俺?」
「そう。そなたは運命に縛られない。なぜならそなたは、今、在るはずのない人間だからじゃ」
「……今、在るはずがない?」
 デッシュは訝しげに眉を寄せ、両の拳を握りしめた。
「どういう意味なんだ、それは」
「それは、行くべき場所へ行けば、自ずとわかるじゃろう」
 長老は天井を仰ぎ、目を閉じた。
「塔が赤い炎を上げて崩れ去ろうとする時、運命を変える男は目覚める……デッシュよ、光の戦士とともに、オーエンの塔へ行くがよい。そこでお前の運命が待っている」
 と、ひとりのグルガン族の男性が、自身と同じくらいの大きさの、細長い包みを捧げ持ちやってきた。
「これを持っていってください」
 包みの中身は、一振りの剣。刀身に様々な部品がついていて、剣というよりは、複雑なカラクリのように見える。
「銃剣、と呼ばれるものだそうです。きっと、あなたの助けになりましょう」
「……それも予言なのかい?」
 包みを直しながら尋ねるデッシュに、グルガン族の男は柔らかく微笑んだ。
「それもあります。しかし、剣はあくまで助けです。道を切り開いていけるかどうかは、あなた自身にかかっているのですよ」

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