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FF3おはなし14

 様々な話を聞いた一行の頭はパンク寸前。気分転換を兼ねて集落を散歩しているうちに、がらんと広い空き地を見つけた。大小さまざまな岩の上に腰を下ろして、ふぅ、と一息。
「なーんか、妙に疲れちまったよなー。運命だの何だのって、盛りだくさんで参っちまうよな」
 はは、と笑うナータの隣で、ルーンは昏い表情をして「運命か……」と呟いた。
「何だ? まだ気にしてるのかよ。運命は絶対じゃないって、長老も言ってたじゃねーか」
「絶対であってたまるか。クリスタルに選ばれた、それだけでも薄気味悪いのに」
「まぁまぁ、そんなに深く考えなさんな!」
 手を振り陽気に笑うデッシュを、ルーンはキッと睨みつけた。
「今回はお前が一番ヘビーだったろうが」
「いや、むしろ俺は、次に何をすればいいのかわかってスッキリしたよ。そりゃまぁ、不安がない訳じゃないけどな。『今在るはずがない人間』ってのも、意味がよくわかんねーし」
「そうだよねぇ。今在るはずがない、ってことは、今生きているはずがないってこと……なのかなぁ?」
 さすがのラーンも不安を隠せない様子だが、デッシュは腰に手を当てて、ほがらかに笑ってみせた。
「本来なら死んでいるはずの人間が、どういう訳だか生き延びて、運命を変えようとしているって訳だろ? くくぅっ、死ヌほどカッコいいじゃねーかよ!」
「よくない」
 ルーンは神経質そうに、爪先で地面をコツコツやっている。
「あんなことを言われて、なぜ、そんなに落ち着いていられるんだ」
「なぜって言われてもなぁ」
 デッシュは前髪を掻きあげながら天を仰いだ。
「あんたは死んでたかもしれない人間なんですよと言われたところで、はぁ、そうですか、としか答えようがねぇもん。なんにも覚えてないんだからさ。どうしようもないことで悩んだって、どうにもならない。だから悩まない。理屈は通ってるだろ」
「馬鹿野郎」
 ルーンは低く吐き捨てた。
「俺が心配しているのは、オーエンの塔とやらへ行ったら、お前の生死に関わるような何かが起こるかもしれない、ということだ」
 これには全員が絶句した。
 確かに、グルガン族の長老の『塔が赤い炎を上げて崩れ去ろうとする時、運命を変える男は目覚める』という言葉は、そのように解釈できる。
 男は目覚める、という表現から察するに、いきなり死ぬことはないのかもしれないが、訪れた塔が炎上すれば、それだけで十分生死に関わる。
 けれどもデッシュは笑みを崩さない。
「わかってるさ。それくらい」
「わかってる……?」
 眉をひそめるルーンにむかって、デッシュは、うん、と頷いた。
「俺は記憶をなくした。けど、何かやらなきゃならないってことは覚えてた。それだけ事は重大なんだよ。俺の命を懸けてでも、やらなきゃならないような事なんだ」
「しかし!」
 思わず腰を浮かせるルーンを、デッシュが「まぁまぁ」と制する。
「誤解しないでほしいんだが、別に、死にたがってるわけじゃないぜ。おまえさん達だって、この旅が危険だって承知でやってるんだろ? 同じ事さ」
「……そうね。そうなのかもしれないわ」
 ユールは膝の上で指を組んで、目を伏せた。
 しかし、と言いかけたルーンの服を、ラーンがぐいと引っ張った。
「大丈夫だよ。どうにもならないこともあるけど、大概のことならどうにかなるって。なにしろあたしたちって、クリスタルに選ばれちゃうような、すんごい奴らなんだから。ちょっとやそっとのことじゃ、死んだりしないって」
「そのクリスタルが一番信用できないんだ」
 呟くルーンに、ラーンはズバっと反論する。
「あたしたちが旅に出たのはクリスタルに言われたから。でも、クリスタルのいうことをきかずに、ウルに残ることだってできたんだよ。まわりが何と言おうと、最後に決めるのは自分だよ」
「……」
 黙り込むルーン。
「それで」
 ラーンはデッシュの顔を見上げて言った。
「デッシュさんは、これから、どうするの?」
「決まってるだろ。オーエンの塔へ行って、運命とやらにご対面だ」
「でもって、あたしたちは、自分の意志で、デッシュさんと一緒に行く。それでいいよね?」
「はーい」
「異議なーし」
 ナータとユールが挙手する横で、ルーンだけが苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
 皆が、どうするの? と視線を注ぐと、ルーンは不貞腐れたように腕を組み、フン、と息を吐いて顔を背けた。
「勿論行くさ。自分の意思でな」
「そうこなくっちゃ!」
「明日から、オーエンの塔目指して頑張るぞー!」
「おー!」
 大きな声で宣言し、拳を突き上げる一行を、ガラス玉のような星たちが、ものも言わずに見下ろしていた。

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