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FF3おはなし18

 ドワーフ達のすみかからトックルまでは、相当の距離がある。途中、無人のアーガス城へ寄って一晩泊まり、そこからトックルへ向かうことにしよう、と四人は決めたのだが……。
「……呼んでいる」
 アーガス城近くの桟橋に船を止めたところで、ルーンがボソリと呟いた。
「声がする。……あっちの方からだ」
 ルーンが示したのは南西。トックルへ向かうには回り道だが、ナータは彼の言葉に従い船を動かした。
 砂浜に船をつけ、歩くこと数十分、辿り着いたのは広大な森。信じられないほどの大きさに育ち、たっぷりと緑を茂らせた大木が、何本も何本も、競うように伸びている。しかし、その森の真ん中に、おそろしく巨大な穴があいている。アーガスやサスーンの城が、まるごとすっぽり入りそうな大きさの、穴が。
「なんだこりゃ。落ちたら、ひとたまりもないな」
「ここに、何かがあったのかしら」
「木……のような気がする」
 ルーンの言葉に、ナータは訝しそうな表情で呟く。
「木のような気がするって、洒落か?」
「馬鹿野郎」
 洒落云々はともかくとして、もし、ルーンの言う通りだとしたら、お城くらいの大きさの木が、ここに生えていた、ということになる。
 皆が言葉を失って立ち尽くしていると、てのひらを広げたほどの大きさの、蝶のようなものが十数匹、ふわりふわりと飛んできて、口々に助けを求めてきた。
「たすけて」
「たすけて、たすけて」
「ななな、なんだこりゃ」
 慌てるナータに、彼らは答える。
「わたしたちは、この森に生きる妖精です」
「長老の木を助けて」
「生きている森を助けて!」
「生きている森」
 そうか、と、ルーンが呟く。
「グルガン族が言っていたな。生きている森が、俺たちを呼んでいると」
「ここが、そこなのか」
 困惑する四人に、妖精達は囁き続ける。
「ここには、一万年を生きる長老の木がありました」
「けれども、闇に魅入られた魔道師によって、奪われてしまいました」
「長老の木は城の形に刻まれて、砂漠をさまよっています。ご覧なさい」
 妖精は優美な腕を伸ばし、南を示す。
 森の南は広大な砂漠。遮蔽物のない地平線はなだらかな曲線を描いて空へと続いているが、妖精が言うようなものは見つからない。
 一行の視線に気づいた妖精のひとりが、頭上高くはばたいた。
「そっちじゃないの。もっと上……空を見て!」
「空?」
 四人は言われるままに視線を上げ、「あっ!」と一声叫んだ。それはかなり遠くにあって、黒い点のようにしか見えないが、確かに何かが、空に浮かんでいる。
「森は長老と繋がっています。長老が枯れれば、皆、死んでしまう」
「どうか、森を、魔道師ハインの手から救い出して!」
「ハイン!」
 弾かれたようにラーンが叫んだ。
「それって、火のクリスタルを盗んだ、アーガスの神官ってやつだよね? クリスタルだけじゃなくって、長老の木まで盗むなんて! いよいよ許せなくなってきたね!」
「ん? ってことは、ハインを倒せば、火のクリスタルも、生きている森も、浮遊大陸も、ぜーんぶまとめて救えるってことか」
「そうね、効率的でいいわね」
 うんうんと頷くナータ&ユールの隣で、「逆に言えば、それだけ強敵だってことなんじゃないのか」とルーンが水を差した。
「……」
「……」
 完全に沈黙した二人の両隣で、ラーンは「絶対にとっちめてやるんだから!」と闘志を燃やし、ルーンは「面白くなってきたな」と笑みを浮かべている。やるき満々のちびっこに挟まれたナータとユールは、そっと、溜息をついた。

 生きている森でテントを張って一泊し、再び船に乗り込んで、移動すること約半日。日の暮れかけたトックルに到着した四人は、焚き火を囲んでいた老人達の、絹を裂くような悲鳴に迎えられた。
「ひぃえぇえっ!」
「アーガス兵!」
「また来たんかっ!」
「もう、この村には何もないぞいっ!」
「残っているのは老いぼれと女子供! 食い物だって、木の皮だの芋の蔓だのがあるだけじゃ!」
 あたふたと逃げ去ってゆく老人達。思わずラーンは眉根を寄せる。
「いきなり、何なの?」
「よくわかんねーけど、あれだ、トックルがアーガス兵に酷い目に遭わされたっつーのは、本当みたいだな」
「けど、あたしたちとアーガス兵を勘違いするなんて! いくらなんでも、……!?」
 ばさっ。
 次の瞬間、四人は、大きな投網にからめとられていた。逃げようとしても、なかなか出ることができない。
「そーれ、捕まえろ!」
 崩れかけた建物や木陰から飛び出してきたのは、鎧兜に身を包んだ兵士達。肩や胸には見覚えのある紋章、もしや彼らがアーガス兵なのかと思いよく見ると、鎧や具足の隙間から覗く身体は、異様に白くて細い骨の足。
ドワーフの言葉を借りるなら『肉がない』。
「ひっ!」
「こいつら、全員スケルトンなの?」
「答える必要はない!」
 網にかかったままボコボコに殴られて、すっぱり意識を手放した四人にむかって、兵士達は 「ハイン様の城で奴隷として使ってやるわ」と笑いかけ、そして……。

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