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FF3おはなし19

 トックルの村で兵隊たちにのされた四人組。気がつけば、どこか見知らぬ建物の、木の床の上に転がされていた。
 目覚めたばかりの時は、遠慮も何もなく「いってぇええ!」「うわぁん、コブができてる~」「あの野郎……許さん!」などとわめき散らしていた四人だったが、ふと冷静になって周囲を見渡してみると、そこはちょっとした大広間ほどもある部屋で、大勢の人々が、すし詰めに押し込められているのだった。
「ずいぶんと元気な捕虜だな」
 隣にいた、初老の男性が苦笑する。
 言われてみれば、ここにいる人々には元気がない。皆、一様に疲れきった顔をして、うずくまったり、溜息をついたり、中には怪我をしている人もいるようだ。
 そのことに気づいた四人は、彼らに笑いかけ、回復の魔法を施し、励ました。そうして話を聞いているうちに、色々な情報を知ることができた。
 捕まっている人のほとんどが、トックルやアーガスの住人であること。
 彼らを無理矢理連れてきた連中のボスが、魔道師ハインであること。
 そして、一行が今いるこの場所こそが、生きている森の長老の木をくりぬいて造られた、ハインの城の内部であること。
「生きている森の妖精が言っていたわね。長老の木は、城の形に刻まれて、砂漠をさまよっているんだって」
 ユールは壁を撫でながら呟いた。
「大切な長老の木を自分の城にしちゃうなんて……とんでもないわね」
「も~、絶対にとっちめてやるんだから!」
 ヒートアップするラーンに、周囲の人々からどよめきが起こる。
「あのハインを倒そうっていうのか?」
「無理だ! あいつは、バリアチェンジとかいうおかしな技を使いやがるんだ。勝てっこねぇよ!」
「バリアチェンジ?」
 眉をひそめるユールに、そうとも、と兵士らしき男たちが声を上げる。
「あいつは、ある時は炎、またある時は雷、ってな感じで、弱点をコロコロ変えることができるんだ」
「しかも、弱点でない属性の攻撃はほとんど効かない。奴に勝とうと思ったら、次々と変わる弱点を、その都度その都度見破らなけりゃならないんだ」
「それは厄介ね」
 ユールは厳しい顔で呟いて、ルーンを見やる。
「弱点を見破る、となると、ルーンの勘に頼るしかないのかしら?」
「あからさまにアテにされても困る」
 ルーンは肩をすくめた。
「だが、なんとか、騙し騙しやるしかないだろうな。奴を倒せなければ、オーエンの塔が暴走して、俺たちは全滅だ」
「そうだよね……動力炉の中で頑張ってるデッシュさんのためにも、頑張らないと」
 ぐっと拳を握るラーン。
 最初に話しかけてきた初老の男性は、一行を、感嘆したような(半ば呆れたような?)表情で見つめながら呟いた。
「この場所で、君たちのような、元気な……希望に満ちた者に出会うとは思わなかった」
「いやぁ。ははは。いつでもどこでもお気楽、っていうのが、俺達の唯一の取り柄でねぇ」
 カラカラと笑うナータに「あんたと一緒にしないで頂戴っ」と、ユールのツッコミが飛ぶ。
 そんな様子にびっくりしつつも、男性は、この城の構造について簡単な説明をしてくれた。
 この城は、普通の建物風にいえば、5階建て。今一行がいるここは1階で、憎っくきハインは最上階の5階に陣取っているらしい。
「内部は複雑で、迷いやすい。しかし、抜け道を使えば、一気にハインのいる場所へ抜けることができる」
「へぇ、抜け道なんかあるの? そんなことまで知ってるなんて、おじさん、詳しいんだねぇ!」
 ラーンが尋ねると、男性は苦笑した。
「ここに連れてこられた時に、ご丁寧にも、ハイン自ら案内してくれたのだよ。ここが私の城だ、と、嬉しそうにな」
「で、抜け道まで教えてくれたんだ? 確かに丁寧だけど……」
「丁寧すぎる」
 ルーンが口を挟む。
「もしかすると、罠かもしれんぞ」
「それはない」
 男は確信に満ちた声で言った。
「あの男に限って、それはない」
「……あの男?」
 ルーンが怪訝そうに呟くと、男は頷いた。
「ハインはかつて、アーガスの神官だった。私とは、顔見知りなのだよ」
「あ、そうなんだ? 生きている森の妖精が、ハインのことを『闇に魅入られた魔道師』って言ってたけど……」
 ラーンの問いに、男は頷いた。
「ハインは強大な魔力の持ち主だった。奴は、大地震を引き起こし、魔物を目覚めさせた何者かに、魅入られてしまったのだと思う……」
「大地震を『引き起こした』っつーけど、あの地震は自然の……」
 言いかけて、ナータは首を振った。
「……ンな訳ないか。よくよく考えたら、この大陸で、地震なんか起こる訳ないもんな」
「左様……」
 男は重々しく頷いた。
「確証はないが、あの大地震は、何者かによって引き起こされたものであると、私は思う」
「絶対そうだよ! だって、ほら、オーエンの塔で出会ったあの双子、誰かの命令で動いてます、みたいなこと言ってたじゃない! きっと、そいつのせいで、ハインもおかしくなっちゃったんだよ!」
 ラーンが腕を振り回して力説する。その隣で、ユールが静かに呟いた。
「と、いうことは、誰かがいるのね? 世界を滅茶苦茶にした何者かが。そいつが私たちの敵なんだとしたら……、ねぇ、それって、かなりとんでもないことなんじゃないの? その誰かさんは、私たちにどうにかできるような相手なの?」
「無理だろうなぁ」
 あっさり言ったのはナータ。
「そうかな。どうにかなるんじゃないのかな?」
 さっぱり言ったのはラーン。
「そりゃまぁ、いきなりそんな凄いのと戦って勝つのは無理かもしんないけど。ハインをとっつかまえて、黒幕のことを聞き出して、で、クリスタルを探していけば、どうにかできると思うんだけど」
 ラーンは、どうにかなる、ではなく、どうにかできる、と言った。
 そう、今の彼らに必要なこと、やるべきことといえば「どうにかする」こと以外にない。
「だからさ、とりあえず、ハインのところへ行ってみようよ」
「その必要は無い」
 突如響いた、聞き慣れぬ声。
 振り向くと、いつの間に現れたやら、ひどく背の高い誰かが立っていた。鮮やかな原色が目を射るド派手な衣装、羽飾りをあしらった小粋な帽子、鳥の翼をモチーフにした肩当て、そこから垂らした白いマント。そのすべてが豪奢なシロモノだが、その中身は。
「肉がない……ドワーフ達が言ってた通りだね!」
「俺たちの存在を嗅ぎつけて、わざわざそっちからお出迎えという訳か」
 すると、ド派手な魔導士……ハインは気障ったらしい動作で歩み寄ってきた。
「私をどうにかできるほどの偉大な戦士がいるらしいのでな。ならば、こちらから出向くのが礼だろう」
 不敵に笑って、手袋に包まれた手を伸ばす。途端に漂う魔法の気配。そうはさせじと、ルーンが武器をふるい、ラーンが炎を噴出させる。けれどもハインは避けようともしない。
 鮮やかに叩き込まれた連続攻撃、次いで炸裂した炎。二人の攻撃は見事に決まったように思えた。しかし……。
 ハインは、変わらず、立っている。傷ひとつ、ダメージひとつ、負った気配はない。そして。
「黒魔法とは、こういうものを言うのだ! ファイラ!」
 ごう、と渦巻く炎をハインは放った。四人の足元を狙って。
 その熱量、その威力の凄まじさに、木の床があっという間に焼け落ちる。足場がきれいさっぱりなくなって視界が開け、はるか下に、空と海と大地が見える。
 四人はあっけにとられた。起こったことがらは理解したけれども、頭がついてゆかない。
 骨の顔をニヤリと歪ませて、ハインは笑う。
「お前達がいなくなれば、浮遊大陸は落ちる。そうすれば、あの方もお喜びになるだろう」
 ……あの方?
 あの方って、誰のこと?
 ゆっくり物を考える間など、ありはしない。
 空飛ぶ城から、四人は、真っ逆さまに落下した。

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